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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
あの子は透明少女
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あの子は透明少女 1

「柄本!行くぞ!」

ドア越しに今岡先輩の声がする。

忘れ物はない。

バックを背負い扉へと向かう。


差し込んでいたルームキーを抜き取り、もう一度だけ部屋を確認する。

入った時は、無機質だったこの場所。

少し散らかっているおかげか生活感が出て安心できる。


今日この部屋に帰ってくる頃にはそんな事も感じられないくらい抜け殻になっているだろう。

私は覚悟を決め扉を開けた。


私達を乗せたバスが会場に近づく。

最寄りの駅から会場へと向かう人々の流れ。

また、会場の入り口にもすでに待機列ができている。


私達は一足早く関係者用入り口から会場入り。

出場者控え室へと案内された。


本番が始まるまでは待機。

それぞれが運ばれてきた自分達の楽器を取りに向かう。

楽器は衝撃吸収クッショに丁寧に包まれ並べられていた。


コンサートでは楽器を使う事が殆どなかった私にとって新しい気付き。

楽器や音響機材の様な繊細なものはこうやって運ばれてくるのだという事。

沢山の裏方の方々がいるという事は分かっているつもりだったが、まだまだ私が知らない人達がいる。

つくづく自分達の力だけではステージに立つ事は出来ないのだと考えさせられた。


楽器を受け取りステージ裏から観客席を覗く。

昨日とは打って変わり、グッズ売り場や食べ物を売る屋台にもスタッフさんの姿。

人が入った事で一気に活気付いている。


ステージでもマイクのテストや照明の確認など最終調整が進む。

道ゆくスタッフさんの顔からも緊張が伝わる。


そして、遂に開場。

観客達が一斉に雪崩れ込んでくる。


控え室のモニターでそれを見ていた出演者達。

観客の多さに言葉を失っていた。

5000人という規模がどれくらいなのか。

過去の映像などで皆見ていたであろうが、実際に当事者として改めて見るととてつもない数。

かなりの場数を踏んできた猛者達ですら体験した事がないのだろう。


恐らくそんな人数のステージに立った事があるのは私だけ。

肌で感じる人の圧が出演者達を押しつぶそうとしていた。

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