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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
多分、アップビート
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多分、アップビート 31

「一応密着ですからね。ロビーなどは一応撮影させてもらいました。許可が下りるか分からないので映像が使えるかわかりませんが」

私がこのコンテストを観に行くために乗ったタクシー。

実は密着スタッフの方も乗っていた。

ただ、ホールの中は一部のメディアのみしか撮影する事が出来ないためスタッフさんと離れ鑑賞していたのだ。


「出来れば映像は全部カットして欲しいですね」

私は苦笑いをしながらいう。

冗談を装ってはいるが、本気でそう思っている。


コンテストの間の出来事は取れ高としては充分だろう。

だけど、涙で崩れた顔を映像として残したくない。

後々冷静な自分が見たい時、間違いなく恥ずかしく思うからだ。


「何か見つけましたか?」

雑談をしながらも密着は続いている。

コンサートの後もカメラが入るなんて事は日常だったせいか、その事になんの疑問もない。


「はい。力貰った気がします」

トートバッグからミネラルウォーターを取り出し額に当てる。

冷えたペットボトルが私の身体を冷やす。

頭をリセットするために。


夜空の下を感情に浸りながら歩く。

これが演出だとしたらやり過ぎかも知れない。

だけど今日はそうしたい気分だったのだ。


中々タクシーが捕まらない。

もしかしたら、このまま宿泊先のホテルまで歩かなくてはならない可能性もある。


ただ、それでもいいかと考えていた。

夜の都会を歩く。

それはそれで面白い。


無敵になった気分。

虫の声しかしない道で、耳に残ったクラッシックに身体を揺らす。

大通り、環状線があるとするなら、今私は感情線を進んでいる。


私にはよく分からないが、手相には未来が刻まれているらしい。

この先、自分はどうなっているのだろう。

明日のフェスの結果は?

音楽で食べていける様になる?


手のひらのシワを睨み付ける。

途切れ途切れの線が無数にあるだけで、よくわからない。

こういう事なら、占いの番組の収録でメモをちゃんと取っておくべきだった。


この後タクシーを拾えるだろうか。

今一番知りたい未来は私には見えてこなかった。

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