多分、アップビート 30
「入賞者は明日記念演奏があるから直接はいけないけど、萌も頑張ってね!」
加奈子は私と握手を交わすとまた取材陣からインタビュー攻め。
最優秀賞者は多忙だ。
恐らく今日はもう話す機会は来ないだろう。
私は取材陣から離れ、会場の出口へと向かった。
「今日はありがとうございました。娘さんに本当におめでとうとお伝え下さい」
出口付近まで付き添ってくれた加奈子のお母さんに頭を下げる。
「こちらこそありがとうございました。こんな娘ですがこれからもよろしくお願いします」
凄く綺麗なお辞儀。
そう言った所作は本当にアナウンサーのそれだ。
「滅相もないです。では、失礼します」
深々と頭を下げる。
こうして私はコンサートホールを後にした。
外に出ると生暖かい風が私の髪の毛を揺らす。
興奮冷めやらぬ中、私の熱を逆撫でする様な暖かさだ。
虫の音がする。
さっきまで楽器の音を聞いていたせいか、少し迫力がない。
ただ、コンクリートに囲まれたこの都会でもこうやって音が聞こえる。
コンサートホールの周りの木々にひっそりと生きているのだろう。
いや、私から見たらひっそりでも虫から見たら精一杯に生きているのかもしれない。
自分の主観とは勝手なものだ。
相変わらず耳鳴りがする。
ただの幻聴かも知れない。
まだ、さっきの余韻が耳の奥に残っているようだ。
ひとまず、大きく伸びをして空を見上げる。
星はいい。
いつ見てもどこで見ても変わらない。
私に何があろうと関係なく輝き続ける。
東京の夜空はあまり綺麗ではないなんて言葉が嘘みたいだ。
その景色は見上げる人間に全てを委ねる。
この壮大な輝きに比べれば、私の考えている事なんて大した事はないのかもしれない。
アイドルを辞めた私でも、まだ誰かの力になれる。
星空が魅せる様な美しさはもう放つ事はないのかも知れない。
でも、誰かが見上げた時に綺麗だと思う星の一つになりたい。
「あれ?待ってらっしゃったんですか?」
首を下ろすと人影。
コンサートホールの外にあるベンチでは密着スタッフの方が待っていた。




