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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
多分、アップビート
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多分、アップビート 28

残るは最優秀賞のみ。

この賞は毎回出るわけではない。

35回行われてきたコンクールの中で、約半分は該当者なし。

かなり厳格に審査され資格のあるものにしか与えられない賞だ。


その為、発表を待つ側は二重に緊張する。

まず、最優秀賞に該当するものがいるか。

その壁を越えても、誰が受賞するのかという事になるからだ。


相変わらずたっぷりとした間が取られた。

その間に全員の呼吸が一瞬止まったかもしれない。

そして、司会者が口を開く。


「今回、最優秀賞の該当者がいます」

会場が波を打つ。

山が動くが如く、地鳴りがしたかの様だ。


そっと加奈子ちゃんのお母さんが私の手を握る。

伝わってくる緊張。

隣を見る事はなかったが、不安そうな表情をされているだろう。

私はその手を両手で包み込んだ。


「該当者は一人です」

もう100か0しかない。

興奮か沈黙か。

どちらにしても、加奈子ちゃんの人生は変わるだろう。

そんな瞬間を何度も見てきたからわかる。


「第35回イタガキ国際ジュニアコンクール、金管楽器の部、トランペット部門、最優秀賞は…」

司会者は深く息を吸い込む。

自分の一声で誰かの人生が変わる。

それを噛み締める様に。


「カナココダカ」

全身を衝撃が駆け抜ける。

その証拠に全身に鳥肌が立つ。

身体の中の興奮を抑えきれず、おもわず隣にいた加奈子ちゃんのお母さんに抱きついた。


それと同時に割れんばかりの歓声がホール全体を揺らす。

新しい才能の誕生を祝福している様だ。


エメラルドグリーンのドレスを着た加奈子ちゃんがステージへと上がってくる。

表情は割と落ち着いており涙はない。


私の予想とは打って変わり、落ち着いた表情をしていた。

涙は一切ない。

驚いた表情もしていない。

なんなら、さっきよりもより大人びて見える。

私の生誕祭パーカーを着ていた彼女の姿はもうない。


加奈子ちゃんが歩くたび、カメラのフラッシュが彼女に当たる。

眩し過ぎてステージが見えないくらいに。

彼女は少し多白いだが、しっかりと背筋を伸ばして表彰へと向かった。

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