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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
多分、アップビート
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多分、アップビート 19

「間に合ったんですね」

言葉と共に金木犀の香りが私をくすぐる。


「なんとかね。ギリギリだったけど」

私は苦笑いしながら言う。

一息おき、声と香りがする方へと顔を向けた。


「萌さんに聞いてもらえて良かったです!おかげで頑張れました」

メイクのせいだろうか。

やっぱりいつもより大人っぽい。

彼女は笑顔で私の隣に座った。


笑顔を見ると安心する。

私の知っている加奈子ちゃんだから。


「で、なんで私の生誕祭パーカー着てるの?」

黒のプルオーバーのパーカーを着ている彼女。

胸には16区ナゴヤのマーク、裾の部分には青いひよこと白いひよこが交互にデザインされている。

背中には自動販売機の絵がプリントされているが、よく見ると私に因んだ単語が色々な所に仕込まれていると言う仕様なのだ。


今見ると、恥ずかしくなる様なデザインの1着。

自分が考案したものなので誰にも文句は言えない。


「ドレス着て歩くと目立ってしまうんで、予選の時から愛用してます」

このパーカーもドレス並みに目立つと思うのだが、それは口にはしなかった。

周りは皆正装に近い、コンサートホールに見合った格好をしている。

こんな派手で、ましてやアイドルのグッズを着ている人物は誰もいない。


ただ、加奈子ちゃんが着ると案外いい様に見えてくるから不思議だ。

彼女にはモデルの素質があるのかもしれない。


「カクテルグラス。このパーカーも含めて意図的に仕込んだでしょ?」

私は核心へと踏み込む。

これは小高加奈子の演奏を聞いた素直な感想であり、そこにはなんの忖度もない。

ただ純粋に彼女の意図を知りたいのだ。


「流石萌さん。ドロシーなだけありますね」

彼女は不敵な笑みを浮かべる。

その顔はさっきよりも大人だ。


「からかわないで。あれだけ、鮮明な意志を見せられたらいくら素人でもわかるよ」

頭の中に強烈に残っている映像。

それは私の思い出の引き出しの中の風景とは異なるもの。

だから、決して思い出を掘り起こしたのではない。

彼女が見せた映像なのだ。

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