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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
多分、アップビート
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多分、アップビート 18

会場が明るくなる。

小高加奈子はトランペットを右手に持ったまま、頭を下げた。


観客は現実に引き戻され、困惑しているのだろう。

しばらくは静寂が場を支配していた。


私もその歪みの狭間にいた人間の1人。

彼女の姿をずっとこの目に収めていたはずなのに、いつの間にか観客席から「カクテルグラス」を見ていた。


やっと、現状を把握した観客達。

慌てたようにあちこちから拍手が鳴り始める。

始めはバラバラのリズムだったその拍手は、次第に規則正しいものへと変わっていく。

それと並行して密度もどんどんと大きくなっていった。


喝采を浴びる加奈子ちゃん。

何故か髪の長かった頃の自分と重なる。

あの時、私がステージから見ていた景色を今彼女は見ているのだろうか。


クラッシックとはなにかが、より分からなくなる。

加奈子の所属するオーケストラの演奏を聞いたり、借りたCDも聞いた。

どちらにもそんなメッセージ性はなかったのに。


さっき演奏していたドイツ人の男性ですらそうだ。

情熱とか、たくましさとかそれ位の曖昧なものを感じただけ。

あそこまではっきりとした映像は浮かんでこなかった。


加奈子ちゃんがステージを去っていく。

私は観客席を飛び出し、彼女に会いに行こうとした。

しかし、一瞬目が合いそこにいろと言われた様な気がして押し止まったのだ。


次の演奏者が舞台に上がる。

フランス人の女性で髪の毛は綺麗なブロンド。

すらっとしたスタイルにキリッとした目を持っているのに、今は凄く弱々しい。

恐らく、先程の衝撃に完全に自信を失ってしまったのだろう。

目に迷いが感じられる。


演奏を聞いてみたものの、これは素人にも分かるほど散々だった。

完全に先程の空気に飲まれてしまったのか、音にも迷いが感じられる。

その迷いがよりリズムを狂わせていく。


何度も何度も練習し、身体が覚えているのだろう。

彼女のミスは一度もなく演奏を終えた。

流石はコンテストのファイナリストである。

ただ、拍手を浴びていても浮かない表情をしていた。


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