卒業のあと 36
卒業しようと思ったのは突然の衝動だった。
それはでは私自身、もっとこのグループに居ると思っていたし、悩みとかもない。
だから、卒業に対する葛藤があったわけではない為、誰かに相談するなんて考えてもいなかった。
「見つけちゃったんだ。悩んでる暇なんてないくらいの夢。」
今日は本音と向き合い過ぎたせいかやけに素直な言葉が出た。
音楽を勉強したい。
それが今私を動かすものだ。
「そんなこと言われたら応援するしかないないじゃん。今から怒ろうと思ってたのに。」
珠紀は相変わらず天井を見ている。
その目には涙を浮かべていた。
「ごめんね珠紀。」
「謝らないでよ。やりたい事見つけたんでしょ。いいことじゃん。」
気丈に振る舞うのが彼女なりの精一杯の強がりなのだろう。
声は震え、目は真っ赤で泣く寸前なのは誰が見ても明らかだ。
必死に耐え、泣かない所が彼女の強さだと思う。
その隣では、マネージャーが声を上げて泣いていた。
中学生は我慢しているのに、大の大人が号泣してしまうというのがこのマネージャーのいい所だ。
ちょっと感情豊か過ぎるが、それくらい私の事を思ってくれている。
このマネージャーについて貰えて本当に良かったと心から思っている。
それから2週間後、私は公の場で卒業を発表した。
みんなが驚いたり、泣いている中、珠紀は相変わらず泣きそうな顔で涙を堪えていたし、舞台袖ではマネージャーが号泣していた。
二人はもう知ってるし、マネージャーに至っては一回泣いたのにまた泣いている。
グループのメンバーの卒業は初めてではない。
数は多くないが、卒業という言葉を何回聞いても辛かった。
そして、なんで旅立ってしまうのだろうとずっと思ってきた。
だから、送り出す方の気持ちは分かる。
そして、旅立つ方の気持ちも今なら分かる。
でも、私は泣くわけにはいかない。
まだアイドルとしてやる事が残っているから。




