卒業のあと 34
「お話中すみません。西村珠紀を連れてきました。」
マネージャーの声だ。
「ちょうどよかった。入りなさい。」
鳩崎先生の声を合図に秘書の方が扉を開ける。
西村珠紀が姿を現したが、その表情は暗い。
おそらくマネージャーにこっ酷く叱られたのだろう。
「すいません。遅くなりました。」
肩をすくめ小さくなった珠紀はマネージャーと共に私の隣に座る。
「珠紀も揃った事だし、今日来てもらった理由を話そう。」
そういってテーブルの上に一枚の紙を置く。
「16区ナゴヤの2期生を募集する。」
紙にはそう書かれていた。
「2期生ですか?」
「私達の後輩が出来るって事ですか?」
言葉こそ違えど、珠紀も私も同じ事を言っている。
まだ鳩崎先生は私を老けさせる気らしい。
「16区ナゴヤも結成して2年を過ぎただろ。だから、新しいメンバーを入れてより勢力的に活動の幅を広げようと思ってな。」
先生はいう。
この時私は嫌な予感がしていた。
いや、もう非常事態宣言が頭の中で発令されていた。
「その2期生のオーディションの選考を手伝ってもらおうと思ってな。」
やっぱりそうだ。
短時間で驚かされ過ぎて感覚がおかしくなっているのか、もう驚かなくなっていた。
「私達が2期生を選抜するんですか?」
新鮮な反応を見せてくれる珠紀。
さらに、その隣で驚いた表情をしているマネージャー。
恐らく社長が何も喋らないのは、先生に振り回され続けて来たからなのだろう。
この短い間でそれが分かった。
「16区ナゴヤ」を去る者が、グループを背負う者と一緒に新しくグループを担う者を選ぶ。
なんて皮肉なんだろう。
とりあえず、逃げ道はないか探してみよう。
じゃないと、卒業するまでに仕事をどれだけ押し付けられるか予想がつかないのだから。




