卒業のあと 33
「珠紀の隣に立てるのは、私の中ではこの人しかいません。」
私の指で示した人物に社長も先生も驚いていた。
やはり先生も想像していなかった。
「でも、この子はそこまでダンスも上手くないですし、歌もそこそこですよ。」
今まで全く喋らなかった社長が口を開く。
それが当たり前の感想だろう。
ダンスも歌も並、それが彼女に対する評価で間違いない。
そういう人物なのだ。
「なぜこの子を推したんだ?」
この日、会ってから初めて先生が私に答えを求める。
今までとは違い先生は困惑していた。
先生の予想を初めて超えたのだ。
「確かにダンスも歌もそこそこですし、選抜でもフロントメンバーではないですね。正直、控えめですし、目立つタイプではないです。でも、彼女はたまにハッとさせる様な顔をするんです。上手くは言えないですが、その顔をみると怖くなるんです。同じメンバーでよかったって。」
上手く言えないが彼女の中には“何か”が隠れている。
全貌が計り知れない“何か”が。
「我々も知らない何かを持ってるという事か。」
先生は苦虫を潰したような表情をしている。
はっきりと想像できないのだからそうなるのも間違いない。
「はっきりとは言えないんです。でも、何かを持っているのは間違いないと思います。」
「そんなはっきりしないものでは困る。」
社長も困惑していた。
私だけが気づいている彼女の才能。
おそらく、珠紀と並べるだけの能力がある。
むしろ、その才能が開花したら珠紀をも超えるかもしれないと思う。
しかし彼女の性格を知っているからこそ、推薦しようか悩んだ。
でも、彼女がいるからこそ安心して卒業しようと思えたのも確かだ。
ただ言葉にできない。
先生達を納得させる言葉に。
そんな時、ドアをノックする音がした。




