卒業のあと 32
余韻に浸りながら、涙が出ない様に必死に堪える。
質問したのは私なのに、さっきから私は何も喋れずにいる。
喋ったら泣いてしまいそうだったから。
だが、次の言葉で涙は一瞬で引いてしまう。
「私からも一つ君に質問しよう。そんな君が思う珠紀とダブルセンターを張れる人物は誰だ?」
警戒を解いてしまったことを後悔した。
背筋が凍るとはこの事だ。
さっきから緊張と緩和がジェットコースターの様にやってくる。
今日一日で急激に寿命が縮まっている様な気がする。
答えるしかない。
先程までの流れではもう逃げることはできない事は分かっている。
「メンバーの中で珠紀とダブルセンターを張れる子ですか…」
目の前にメンバー全員の顔写真が載っている紙を渡される。
最近取り直した為、新しいプロフィール写真になっていた。
私と珠紀を除く18人のメンバーの様子を頭の中で思い浮かべる。
アイドルを全うしている子、歌が上手い子、ダンスが上手い子、よく喋る子、真面目でメンバー思いな子、シャイで人見知りな子、個性豊かな子達が揃っている。
誰に紹介するとしても恥ずかしくない人材ばかりだ。
だが、珠紀の隣に立つとなると話は別だ。
珠紀はこのグループの太陽だ。
眩しすぎるほど輝いている存在。
本人もそれは自覚している。
その太陽の隣でも消えずに輝ける存在。
少なくとも私はそこに立てる存在じゃなかった。
なら誰が良いのか。
私の中に一人だけ浮かんでいる人物がいる。
多分、誰も想像していないと思う。
おそらく鳩崎先生にも。
“でも、良いのだろうか。”
私の中に葛藤する気持ちがある。
彼女にとっては辛い道になるかもしれない。
この事を知ったら恨まれるかもしれない。
きっと私の事が嫌いになるだろう。
でも、この人しかいないと思う自分がいる。
自分の感覚を信じて良いのかとも思う。
“私は見てみたいな。”
考えれば考えるほどその気持ちが大きくなっていく。
私はどこまで我儘なのだろう。
最近は自分の気持ちに正直過ぎる気がする。
そう思いながら私はメンバーの顔写真にそっと手を伸ばした。




