卒業のあと 31
また社長室は静寂に包まれている。
そして、先生は驚いた顔をしていた。
その顔は苦笑いに変わっていく。
「知ってるさもちろん。これでも、プロデューサーなんだからな。」
言われれば当たり前の事だ。
だが、このグループからすればそれは当たり前の事ではない。
まず、うちのグループで20人、「23区トウキョウ」に至っては3期生まで加入しており47人、総勢で67人もいる。
更にいえば、先生はこの2つのグループのプロデュース以外にも様々な仕事を行なっている忙しい方だ。
そんな先生が「23区トウキョウ」の選抜にも入っていない私を、しかもダンスの事まで知っている。
「君が16区ナゴヤで一番練習熱心な事も、23区トウキョウのダンスを全部覚えてる事も知ってる。ついでに、いきなり代役としてユニット曲(メンバー複数人を選りすぐったチーム)をライブで踊った事もな。全部ではないが、君達の事もちゃんと見ている。」
“君達”という言葉を聞いて目頭が熱くなるのを感じていた。
先生はすごい人だ。
話してみるとそれが分かる。
私達はずっと不安だった。
国民的アイドルグループの2つ目のグループ。
偉大な姉を持つ妹の如くプレッシャーは凄くあった。
姉グループの様に期待されている実感がなかった。
私達は見て貰う程の実力が、いや…価値があるのか。
ずっと心の中にその思いがあったから。
アイドルをやってきた事が報われた気がした。
もう、アイドル人生が終わることにに悔いはない。
そして伝えてあげたい。
この事をみんなに。
泣きそうになるのを必死に堪える。
だが、まだ泣くわけにはいかない。
私はまだアイドルで、まだファンの方々に感謝を伝えられていないのだから。




