夏蝉、鳴く 50
大きく身体を逸らす。
かなり時間が経っていたようだ。
時計は日にちを跨ごうとしている。
慌てて寝支度をしようとしたが、今は夏休みだという事を思い出し胸を撫で下ろした。
とりあえず、動画の停止ボタンを押す。
ずっと映像を見ていた。
楽しそうな場面も、辛そうな場面も、必死そうな場面も。
色んな場面の自分を見ていた。
もっと寂しくなったり、喪失感を感じるかと思ったが、不思議とそういう気持ちにはならなかった。
目尻には生乾きの涙の跡。
ただただ涙が止まらなかった。
自分の力では止められず、途中から拭き取るのもめんどくさくなって、流しっぱなしにする程。
次の日の目が腫れないか心配だ。
手で生乾きの涙を拭いパソコンを閉じる。
流石に寝支度をしなくてはいけない。
女子は寝るまでに時間がかかる。
夜更かしは肌にも身体にも悪いのだから。
リビングに戻ると父も母もすでに居ない。
二人とも寝てしまったようだ。
とはいえ、柄本家では日常。
私と違い次の日も父は仕事。
いつも、日を跨ぐ前に床に着いている。
お風呂に入り、肌のケアをして、髪を乾かす。
寝支度をしている間に時刻は午前1時。
日付を跨いでしまった。
ため息と共にスマホを開く。
こうなったら開き直ってオールナイタージャパンをリアルタイムで聴いてみよう。
そんな気分にまでなっている。
ただこの場合、気分が上がっている間は楽しいのだが、次の日の身体の倦怠感で間違いなく後悔する事ばかり。
分かっていても、やりたくなってしまうのだ。
だが、ラジオアプリを開く前にその問題は綺麗さっぱり忘れていた。
亜佑美先生からデータファイルが送られてきたからだ。
ファイルの中身はダンスの練習動画。
何のダンスかは言わずもがな。
亜佑美先生は私に動画を送ってくれる。
前にも言ったが、このことがバレたら大問題な為いつも先生には感謝しかない。
動画を開くと少し間が空き、タイトルが大きく映し出される。
16区ナゴヤ6th Single
「藍色、どんな色?」
私は夜更かしする事を決めた。
藍色なんかよりさらに黒い夜に。




