卒業のあと 30
先生は20代前半で世に曲を出している。
しかも、名曲と呼ばれる曲を。
このことに気づいた時、私は驚いた。
そして気付く。
ワクワクしている自分に。
まだまだ知らない世界がある。
その世界を見たくなった。
そうなってしまったら、走り出したくなった。
自分のやりたい事を見つけたから。
「バンドをやるのか。今からつくる…訳ではなさそうだな。」
恐ろしい洞察力だ。
その力に完全に白旗を上げる。
「御察しの通りです。地元の高校生バンドですけどね。」
レーベルにも所属していない無名のバンド。
有名人である先生の前で語るのも恥ずかしいくらいだ。
「そうか。もうダンスは踊らないんだな。」
「もう…踊らないかもしれませんね。」
「ちょっと残念だな。」
ダンスへの未練はあるが、仕方がない。
それよりも、先生が私のダンスを見ていたことが驚きだ。
「バンドでの曲が出来たら、私の所に送ってきなさい。」
先生は言う。
「聴いていただけるんですか?」
私はまた驚いている。
さっきも言ったが無名なバンドでしかない私達の、もっと言えば高校生が作った曲を聴いてくれると言うのだから。
「聴くさ。君の、いや君達のバンドがどんな曲を創るか興味がある。」
「私はベースでの参加ですし、曲を創るわけではないですよ。」
「そうなのか。でも構わないさ。君の選んだのがどんな子なのか興味もあるしな。」
ダンスの事といい、まるで私のことを昔から知っているような口ぶり。
こうなると疑問を解いていかなくてはならない。
「先生は私の事を知っていらっしゃるんですね。」
我ながら確信を突く質問だと思う。
まどろっこしい建前などはいらない。
そんな事をしても結論は変わらないのだから。




