夏蝉、鳴く 46
私は今までやってきたダンスは基本的に全てが決まっていた。
曲も歌詞も歌割も振り付けも。
全て与えられていた。
グループに所属している以上、フォーメーションの一部を担うダンスが大半を締める。
ソロパートがある時もあるが時間にして僅か。
一人でステージに立つ事は殆どない。
小さい頃に習っていた社交ダンスも、振り付けは講師の先生にしてもらっていた。
だから、一から考えるなんて初めての経験だ。
ダンスを作るのはこんなに難しいものなのか。
漠然としたイメージしか浮かばない。
思い付いては踊り、思い付いては踊り、そしてリセットする。
自分の長所と言われても、周りのレベルについて行けず自信がなくなっている今、胸を張れるものがない。
私の事を誰かに教えてほしい。
いい所、悪い所、仕草や喋り方。
自分を自分で決めるなんてかっこいい事を言った癖に、自分の事を何にもわからなくなってしまった。
頭を抱え階段を上がる。
すると、同じ様に頭を抱え机に突っ伏す今岡先輩がいた。
「あれ?今岡先輩バイトじゃなかったんですか?」
先輩の反対側の席に腰を下ろし質問する。
「バイトしてるよ」
先輩は原稿用紙を前に頭を抱えている。
夏休みに入る直前に始めたラジオ局のバイト。
なんでもラジオで流す曲の紹介用の原稿を書いているらしい。
先輩の周りには沢山のCDの山。
邦楽、洋楽問わず、HIPHOPにJ POP、演歌に、ロックとジャンルも様々。
音の中に埋もれている様だ。
「凄い数のCDですね!全部バイト先から借りてきたんですか?」
なんとなくCDのタイトルを目で追いながら聞く。
「そうだよ。バイト先のCD保管してある倉庫から拝借してきた。倉庫の中にずっといたら頭おかしくなりそうだったからな!」
すでに心配になるくらい頭を抱えている先輩。
普段は保管倉庫の中で原稿を書いているらしい。
だが、今日はあまりにも原稿が進まず、苦肉の策として気分を変える事にしたのだそうだ。
しかし、楽器屋「RACK」に来ても全くアイデアが浮かばず頭を抱えて今に至るのだ。




