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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
夏蝉、鳴く
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夏蝉、鳴く 45

舌先に残ったのは柑橘系の風味。

彼らの曲を分かりやすく言うとこんな感じだろう。

その風味が聞いた全員に好まれるかは分からない。

だが、少なくとも俺は嫌いじゃない。

だから戦楽フェスにデモCDを送った。


柄本萌がいるからではない。

とも、断言できない。

彼女には力がある。

しかし、本人はあまり自覚していない様だ。


あとは、彼女のいるバンドがどんなパフォーマンスをするか。

彼女をどういう立ち位置で使うか興味がある。それ次第で、本戦の順位もが変わってくるだろう。


俺は近藤に返信をし、書類に目を通す作業に戻る。

机に置かれた資料の束を見ると分かると思うが俺だって忙しい。

こんなにやる事があるのに、まだやりたい事を増やしたくなる。

芸能界で生きているという刺激を求めて。


夏蝉が一斉に鳴き始める。

雨は止んだ様だ。


ただ、段々蝉の声すらも聞こえなくなっていく。

目の前の事に集中していくと周りの音が消えていくから。

舌先に残る苦味すら消えていき、俺は書類の中に意識を落とすのだった。


「嬢ちゃん!もう時間だぞ!」

店長の言葉で我に帰る。

床を汗で濡らしているのすら気付かないくらいダンスに没頭していた。


近くに置いていたノートは真っ黒。

書いた文章を消すのが面倒でどんどん書き足していった結果。

今私の頭の中を具現化したもの。


タオルを頭に乗せたままスタジオを掃除をする。

ここは楽器屋「RACK」

私は今日丸一日ここにいた。


朝、先輩達とミーティングをし、ライブの前座でやる曲の選定と楽器の練習。

昼からバイトがあった先輩達が帰った後、亜佑美先生のダンスレッスンで出された課題に取り組んでいた。


今週から新しい課題を出されていた。

課題の内容は創作ダンス。

曲も振り付けも自分で考え、3分間のダンスを作るというもの。

テーマは自分の長所をアピールする。

これ以外、なんのルールもない。


一見、自由に見えるがこれが難しい。

今まで私が全く培ってこなかった部分の課題だったのだ。

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