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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
夏蝉、鳴く
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夏蝉、鳴く 39

話を聞いていてわかった事なのだが、ライブの誘いは他にもあるらしい。

あの選考会の後、何組かのバンドが声を掛けてくれたそうだ。

日程などは豊田先輩が裏で色々と調整してくれているらしいのだが、私は何にも知らされぬまま今に至る。


思い返せば、選考会はバンド同士が凌ぎを削り合った熾烈な場所だった。

だが一方で、同じ世代の中でこの様な交流が生まれていく。

まるで少年漫画の様。

戦いが終わればみんな共に戦った仲間なのだ。


このフェスの主催団体はこの様な事まで考えていたのだろうか。

だとすれば、このフェスは才能発掘という目的だけでなく、バンドの未来の事まで案じている事になる。

本当に音楽の好きな人達なのだろう。

このフェスの詳しい概要を調べてみたいと初めて思った。


「まさか彼らここまで上がってくるとはね」

国越吉貴は東京の高層ビルの中の1室にいた。

広い部屋に女性と2人だけ。

綺麗に整理された棚には資料の束とCDが隙間なく並べられ、賞状が至る所に飾られている。


自分の対面でソファーに座る女性は、本戦出場バンド12組の一覧を見ながらそうは言った。

しかし、言葉とは裏腹に驚いてはいない様だ。


「鳩崎くんが推薦の事だけはあると言うことかな」

その人物がいう鳩崎くんとは鳩崎靖晃。

作詞家にして23区トウキョウの生みの親。


そんな誰もが知る著名人をまるで友達かの様に呼べる人物。

それが、この大手レコード会社「トライアングル&スクエア」の代表取締役社長、伊藤しおり(いとうしおり)だ。


近年のクールビズの風潮でジャケットではなく、ストライプのシャツにネイビーブルーのパンツを履きこなす。

髪はショートボブで暗めのブラウン。

背は女性の中では高く、モデルの様な綺麗な立ち姿をしている。

50歳を過ぎているはずなのにまだ、30代と言っても違和感のないほど若く見える。


俺はこの人に呼ばれて今この部屋にいる。

戦楽フェスU-18の本戦出場バンドが決まり、その報告をしろとの御用命だった。

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