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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
夏蝉、鳴く
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夏蝉、鳴く 38

3曲という少なく曲数で、観客に印象付けるにはつかみが大切。

私達に興味を持ってもらうこと。

それが出来なければ本戦は戦えない。

その為に、観客の心を掴める曲が必要なのだが、うちのバンドの今ある曲では野外フェスで演奏するにはインパクトに欠ける。

その事はメンバー全員が分かっていた。


新曲の話題になった時からだろうか。

今岡先輩の表情が暗い。

口数も明らかに減っていた。

理由は言わなくても分かる。

先輩だって新しい曲が必要な事はわかっているのだから。


問題は新曲だけではない。

ステージ経験の少なさ。

これまでの予選でもその未熟さを露呈し続けてきた。

この4人でお客さんの前で演奏する量を増やす。

これは本戦に立つまでに、なんとかしなくてはならない最重要課題だ。


本戦まで、あと1ヶ月。

豊田先輩のお陰で、やるべき事が明確になっていく。

だが、ライブも新曲も容易にできるものじゃない。

元アイドルだった私にもそんな事くらい分かる。


「で、そのライブの話だけどfishing is goodのライブの前座で演奏する日取り決まったから」

さっきまで口数の少なかった今岡先輩が言った言葉は、私の考察を無に帰すものだった。


「え?なんで先輩達は驚いていないんですか?」

更に驚いたのは、私以外の先輩達が全く驚いていないこと。

つまり、私だけが前座の話を知らなかったのだ。


「なんでって、この前の選考会の控え室で誘われた時、その場にいたもん」

豊田先輩はそう言ったが、私は記憶にない。

それもそのはずで、この出来事があった時私はアルトビーツのスペーシー平尾さんの楽屋にいたからだ。


それなら、帰り際にfishing is goodのボーカルの人が"またな"と言ったのにも合点がいく。

そんな背景も知らずに、喜んで手を振った自分。

恥ずかしすぎて大声をだしてしまいそうになった。


一旦気持ちを落ち着かせる。

何はともあれ、前座という役割ではあるがライブに出れるという事実。

その事が凄く嬉しかった。

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