夏蝉、鳴く 33
「大輝さんって先輩達の知り合いの方ですか?」
私は尋ねた。
先輩達は拍子抜けした表情で私を見る。
今更何を言ってるんだと言わんばかりの表情。
知らないから尋ねたのに。
「大輝はお前が加入する前に、このバンドでベースを担当していたやつだ」
今岡先輩に言われ、記憶を掘り起こす。
私がまだアイドルだった頃、先輩達のライブを観に行った時の事を思い出した。
あの頃からこのバンドは4ピース。
一緒の電車の車両に乗り合わせた時も確かに4人だった。
記憶を掘り起こしていくと、大輝と言う人の顔を思い出す。
職業柄、人の顔を覚えるのは得意だ。
そうなると、先輩が言っている事には矛盾が生じてくる。
何故なら、先輩が大輝と言っている人物は画面の中でボーカルでギターを弾いているのだから。
「大輝こんな曲作るんだな」
横井先輩が嬉しそうに演奏を見ている。
大輝と言う人と先輩達の間で、何があったのだろう。
先輩達の嬉しそうな表情を見ると余計に分からなくなる。
私は加入前、バンドのメンバーが足りなくなったとしか聞かされていないからだ。
それ以上、この話題に触れる事はしなかった。
聞いて良いものなのか判断のしようがなかったから。
ただ一つ分かっていることは、私とこの人は入れ替わりで入ってきたと言う事だけだ。
今岡先輩の家で行った会議が解散になったのち、私は歩いて家に帰った。
先輩のお母さんは家まで送ってくれると言ったが、申し訳ないのと、一人になりたい気分だった為、丁重にお断りした。
パソコンを開き、自分の部屋で改めて戦楽フェスの映像を見ても、この12組の中に私達がいるという実感が湧かない。
アルトビーツの朝井さんの言葉を何回聞いても、私達が演奏している映像が流れても、他人事の様に思えてしまう自分がいる。
みんなにあれだけ祝って貰ってるのに。
何かふに落ちない。
そう感じてしまう。
大切なピースがまだはまっていない様な変なわだかまりがあるのだ。
そんな事を考えていると、私のスマホの電話が鳴る。
それは、戦楽フェスU-18の運営からのものだった。




