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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
夏蝉、鳴く
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夏蝉、鳴く 31

「おめでとうございます!萌さん!」

知美ちゃんが助手席から身体を乗り出し祝福してくれる。

でも、どういう感情でこれを受け止めればいいのか分からない。

驚きも喜びも現地味がない。

今自分がどこにいて何をしているかすら忘れそうになる。


スマホを落とす。

足の指に当たった痛みで、今岡先輩と通話中だったことを思い出した。


「すみません!通話中だったの忘れてました」

呼びかけても反応がない。

電話は繋がっている。

先輩も今、恐らく私と同じ状態なのだろう。


「すまん、一回切るわ…後で掛け直す」

力なく先輩はそう言い電話を切った。

正直先輩に仕切り直してもらえてありがたい。

今は何を言われても何にも覚えてないと言うことになりかねないからだ。


電話が切れるとすぐにスマホが揺れる。

内容を確認しようと画面を確認しようとすると、またスマホが揺れる。

内容を確認しようにも画面が揺れて見にくい。

スマホのバイブレーションの仕業かと思っていたが違う。

自分の手が震えているせいだった。


この感覚は一度経験している。

ことの重みを身体が理解し始めた証拠。

まだ麻痺している頭を差し置いて身体が反応している。


「お母さんすみません。このまま今岡家の自宅お邪魔してもいいですか?」

恐らく先輩達もメンバー全員で集まりたい筈。

今岡先輩から連絡が来る前にそう判断した。

混乱する頭をなんとか動かし考えた結果だ。


先輩のお母さんに許可を貰い今岡家に向かう。

しかし、休日の夕方ともなると交通量が多い。

いくら田舎な町とは言え、主要道路は渋滞する。

例に漏れず、この車もその渋滞に巻き込まれてしまった。


ゆっくりとしか動かない車の中で連絡を返していた私。

頭を動かせば動かす程、現実を受け入れていく。

受け入れていく中で、アルトビーツの朝井さんの言葉を何度も頭の中で再生する。

未だにこれはドッキリなんじゃないかと思う。

念の為、車内を見渡してもカメラなんてない。

どうやら、本当の事で間違いないようだ。

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