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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
夏蝉、鳴く
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夏蝉、鳴く 29

納得出来ないと前に進めない。

今の自分を重ねてしまう。

自分のダンスに全く納得できていない現状。

もし今、バーを目の前にしていたら跳び越える事はできないだろう。

まあ、ダンスを披露する機会はないのだから慌てる必要もない。


そう考えると、私がまたダンスを習い始めた事は周りからは理解し難いだろう。

誰に見せるでもなく、わざわざお金まで掛けて悩み事を増やしている。

しかも、私にはバンドという夢中になれるものが目の前にあるのに。


私のやっている事は自己満足に近いのかもしれない。

でも、新しい壁を知ってしまった。

もう飛び越えない訳にはいかないのだ。


知美ちゃんは走る。

真っ直ぐ前だけを向いて。

さっきよりも完璧なスタート。

追う背中はない。

ただ、白線に向かって加速する。


彼女は優勝した。

大会記録を更新するというおまけ付きで。

表彰台で見せた弾ける様な笑顔はまるで向日葵の様。

その笑顔を見るだけで明るい気持ちになれる。


「おめでとう!優勝だなんて凄いね!」

優勝盾と賞状を持って帰ってきた知美ちゃんを、私は拍手で出迎える。


「ありがとうございます!とりあえず一安心です!」

彼女はホッと胸を撫で下ろす。

優勝した喜びよりも、不安から解放された様な顔をしていた。


「凄いよね!これで全国大会出場でしょ?」

私の言葉に少し困った様な顔をする彼女。

何かまずい事を言ってしまったのだろうか。

私も不安になる。


「あの…全国大会は県大会終わった時点で決まっていたんです。標準記録を切っていたので」

知美ちゃん曰く、全国大会の出場には標準タイムを切れれば出場できるらしい。

東海大会は全国大会への弾みをつけるために出場した為、優勝を初めから狙っていたとの事。

ここで優勝出来なければ全国大会では戦えないという自分への暗示を掛けていたのだ。


私は顔から火が出そうになる。

ただでさえ、気温が高いのに身体中がより熱い。

太陽が傾き掛けていて助かった。

顔が赤いのを夕日のせいにできる。


無知とは怖い。

あんなに優勝だと騒いでいた事を後悔している。

もっと下調べをして、大会は応援に行かなくてはならないのだと心から学んだ瞬間だった。

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