卒業のあと 28
沈黙があっただけに衝撃が大きい。
話題の転換が早過ぎる。
そもそも、卒業する私が珠紀とセンターなんて想像もしてなかった。
二撃目にしてすでに先生のペースだ。
どう反撃すべきか。
このままいくと、卒業する事をうやむやにされてしまいそうな気がした。
「嬉しいですが、私は卒業する身です。グループの為には将来性のある子を抜擢すべきかと。」
卒業というワードをしっかりと入れ、無難な意見を出す。
これで時間を稼ぎ対策を考えなくてはならない。
先生の返答次第で心理を探る目的もある。
「そんな無難な事を聞きたいわけじゃない。センターをやる気はあるかと聞いているんだ。」
先生は真っ直ぐに私を見る。
この時に私は自分の過ちに気付く。
卒業をうやむやにしようとか、そんな簡単な事は考えていない。
先生は私の覚悟を試しているのだと。
アイドルとしての私の覚悟を。
心理戦など最初からする気がないのだ。
となれば、私も真っ向勝負だ。
「いつかセンターをやってみたいと思っていましたし、アイドルをやっている以上は一番を目指してやってきました。」
さっきよりしっかり真っ直ぐに先生を見る。
これは、私の嘘偽りのない言葉だ。
これまでの事を思い出す。
ダンスのレッスンで先生に怒られながら泣きながら練習した事。
近所迷惑にならない様、自宅のお風呂場で歌の練習をした事。
通学の時間に、曲やダンスの映像を飽きるくらいみていた事。
ダンスの練習のし過ぎて足の皮がべろべろにめくれてしまいテーピングをして踊っていた事。
「23区トウキョウ」の曲、全て頭に入っている事。
全て私がアイドルになって積み上げてきたものだ。




