夏蝉、鳴く 28
人はあんなに速く走れるし、高く跳べるし、遠くに投げられる。
私の体育の記録とは比べ物にならない記録が並ぶ。
自分の想像を遥かに超える事が目の前で上塗りされていく。
ここにいる選手達は全員私よりも歳下なのに。
「萌さん何か気になる種目ありました?」
知美ちゃんに話しかけられ我に返る。
彼女はバナナで栄養補給をしながら不思議そうに私を見ていた。
気になる種目が特にあるわけでは無い。
ただ、最近人の動きを目で追う癖がついてきたせいか、競技中の選手達の動き一つ一つを観察してしまうのだ。
「失敗する時と、成功する時って何が違うんだろうね?」
たまたま競技中だった走高跳を指差す。
走高跳はバーを飛び越える事の出来る高さを競う競技。
飛び越える事に失敗しても、同じ高さを3回まで挑戦する事ができる。
つまり、1回目の跳躍に失敗しても2回目や3回目で成功すると言うケースもあるのだ。
もう一度失敗した高さを跳ぶ。
次は見事に飛び越えたりする。
高さもやっている人間も同じ。
結果が出る時、失敗する時、何が違うのか。
理由を探りたくなる。
「走高跳ってすごく繊細な競技らしいんですよね。何か一つでもズレちゃうともう跳べないって言ってました」
知美ちゃんは言う。
助走の速さや踏切の角度、跳躍の体勢。
それら全てを失敗した跳び方から少しずつ修正していく。
自分の跳躍を振り返って身体をコントロールしているのだと。
「だから、全ての動きが納得出来ないと成功しないらしいです!」
彼女に言われて納得した。
随分都合のいいもので、説明されてから見るとその通りに見えてくる。
とはいえ、言われた事を当て嵌めながら跳躍を目で追うと合点がいく。
技術的な事は分からないが、身体の動き方を見ればなんとなく成功する跳び方がわかってきた。
踏み切った瞬間、その選手が自信を持っているか否かが見分けられるくらいに。
納得出来ないと跳べない。
その言葉に対して、自分の中に共感できる感情を見つけけていた。




