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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
夏蝉、鳴く
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夏蝉、鳴く 27

「あ、そうだ!これ差し入れ!」

私は買っていた差し入れの袋を知美ちゃんに渡す。


「ありがとうございます!わざわざすみません!」

エネルギーゼリーを口に加えたまま彼女は袋を受け取る。

渡すタイミングを間違えただろうか。

もう少し落ち着いてからでもよかったかもしれない。


彼女に渡したのはエネルギー飲料。

ただ、一般的に言われるエナジードリンクや栄養ドリンクではない。

必須アミノ酸の吸収に特化したドリンクだ。

もちろん一般に売られている、ドーピング規約にも引っかからない安全なもの。


「大したものじゃないけど、試合の合間にでも飲んでよ!」

これはアイドル時代トレーナーさんに教えてもらって以来私も飲んでいる。

これを飲んでいるとダンスの練習が長くなっても最後まで身体が動いてくれる気がするのだ。


これは、あくまで私の体感でしかない。

知美ちゃんにも当てはまるかは分からないが、試してもらう価値はあると思い差し入れに選んだのだ。


「次はいよいよ決勝レースだね!」

私の隣に座っている彼女に私は話しかけた。

平然とした顔でゼリー飲料を飲んでいる姿を見て、今の心境が知りたくなったのだ。


「そうですね!萌さんが応援に来てくださってるので心強いです!」

彼女は満遍の笑みを私に見せる。

その笑顔を見る限り、緊張している様子は全くない。


「よかった!応援きた甲斐があったな!」

私も満遍の笑みで返す。

変に色々な事を聞いて緊張させる訳にはいかない。

だから無駄に気を使わせない様、精一杯のアイドルスマイルを見せる事を心掛けた。


「それにしても、陸上って凄いね!沢山競技があってさ、迫力があるもんね!」

私が知っている陸上競技は体育の範疇を超えない。

だから、ここに来てびっくりした。

私の知らない種目も含め競技場内一杯に使って行われていることに。


高く跳ぶ、遠くに跳ぶ、速く跳ぶ。

跳ぶ種目だけでも全然競っているものが違う。

砂が舞い、宙を舞い、空を漕ぐ。

その全てが洗練されていて思わず見入ってしまっていた。

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