夏蝉、鳴く 26
「萌ちゃんわざわざ来てくれてありがとね!」
今岡先輩のお母さんが私に話しかけてくる。
娘の準決勝のレースが無事に終わり緊張が解けたのだろう。
声のトーンが明るい。
私の座っている座席の周りには知美ちゃんの中学校の部活の仲間たち、そしてその親御さん達。
全員が部活で揃えたであろう学校名の入った黄色のTシャツを着ている。
その中にいる私。
無地の白い半袖Tシャツの中に長袖のインナーシャツを着た上半身。
下は短パンにレギンスを履いたスタイル。
一人だけロックフェスを観戦に来ている様な雰囲気。
明らかに浮いていた。
「いえいえ!むしろ、全く関係ない私がお邪魔してすみません」
深々と被ったベースボールキャップが怪しさを加速させている。
日焼け対策を万全にして行ったのが間違いだった。
現に周りにいる親御さん達がしきりに私を見ている。
先輩のお母さんは私の事を周りの人達には親戚の子と言ってくれていた。
私を気遣ってくれている。
ここに居ても違和感がない様にしてくれているのだ。
一応母校なのだが、中学1年生の間だけしか通っていない為か全く知り合いがいない。
引率の先生すら顔を見た事がない。
ただ、なんとなく雰囲気が見覚えのある子もいる。
もしかすると、私の同級生の兄弟なのかもしれないのだが確かめる術はない。
「お母さん!エネルギーゼリー頂戴!」
レースを終えた知美ちゃんが帰ってくる。
先程までの真剣な表情と打って変わっていつもの明るい表情に戻っていた。
「帰ってきて早々緊張感のない顔して!まだ決勝があるんだからね!」
先輩のお母さんはそう言いながらも彼女にゼリー飲料を渡す。
「知美ちゃん速かったね!私びっくりしちゃった!」
持っていた団扇で彼女を仰ぐ。
この団扇も部活で揃えたものらしく、さっき部員の女の子が渡してくれたのだ。
「いえいえ!スタート慎重になっちゃいました。それより、こんな暑い中来てもらってありがとうございます!」
彼女は礼儀正しくお辞儀をした。
流石スポーツマン。
礼儀作法はしっかりしている。




