夏蝉、鳴く 24
「お疲れ様!また来週ね!」
帰り支度を終えた萌と言葉を交わす。
「ありがとうございました!またお願いします!」
彼女はいつもの様に深々と頭を下げスタジオを出ていく。
その間、悩んでいる様な顔は一切見せない。
自分の気持ちを出すのを嫌がる。
そんな彼女が、お客さんの前で感情を剥き出しにした。
それがどれだけ特別な事か。
分かる人物がどれだけいるだろう。
「こんばんは!亜佑美先生!よろしくお願いします!」
まるで風が扉を押す様に静かに扉が開く。
「あら?早かったじゃん!」
萌と入れ違いで入ってきたのは大人しそうな女の子。
「撮影が早く終わったので、その足で来ました!」
長い時間一緒に過ごしてきた16区ナゴヤのメンバーでも、最近の萌の感情の変化に気付いていたメンバーは少ない。
今私の目の前にいるのは、その数少ないメンバーの一人。
「早く終われてよかったじゃん!とりあえず、着替えてきな!」
新曲の発表まであまり時間がない。
西村珠紀と共にセンターに立つ彼女は、ダンスをしっかりと仕上げる必要がある。
その為に彼女が選んだのは、通常レッスンに加えて私のスタジオでのレッスンだった。
センターとして注目され仕事が増え、レッスンにも出れない日も出てきている。
しかし、忙しくなっても彼女は時間を惜しんでダンスに取り組む。
それは、誰かに強制されたわけじゃない。
自分で選んで決めたのだ。
私は彼女の待つスタジオに歩みを進める。
スタジオに入るとすでに彼女は、準備体操を始めていた。
萌もこの子も同じ様に変化していく。
2人の関係を私はよく知らない。
だけど、凄く似ている。
まるで姉妹であるかの様に。
「じゃあ、早速始めよう!」
この子の踊るこの曲が世に発表されたら、また萌に振り付け動画を送ってあげなくては。
踊る時間と余裕があるかは分からないが、多分欲しいというはずだ。
自分がいない16区ナゴヤ。
萌はどう思うだろう。
逆に、萌えのいない16区ナゴヤ。
この子は何を思っているだろう。
そんな野暮な事は聞くまでもない。
私はプロのダンサー。
2人の踊りさえ見ればその答えはきっと出る。




