卒業のあと 27
頭を必死に働かせる。
とにかく、一度冷静にならなくてはならない。
先生が何故ここにいるか理由はわからない。
だが、今から立ち向かわなくてはならない相手だ。
このままでは、ノーガードで打たれるだけになってしまう。
事務所が闘技場の様に思えてきた。
「とりあえず、立っているのもなんだから座りなさい。」
鳩崎先生の声で現実に戻ってくる。
闘技場から社長室に景色が変わったが、心持ちは変わらない。
覚悟を決めて私は一歩足を出す。
しっかりと一歩づつ歩みを進め高級そうなソファに座る。
テーブルを挟み先生と社長と対峙する。
鳩崎靖晃先生。
改めてみると先生は中年の普通のおじさんだ。
少しお腹が出ており顔も少し丸い。
だが、ジャケットにチノパンと清潔感があり、さりげなく付けられいる腕時計はきっと高価なものだろう。上品さを感じさせる。
とはいえ、隣にいる社長の方がバリッとしたスーツを着ており威厳を感じる。
だが、それは見た目の話だ。
「卒業したいらしいな。」
先生からいきなりの先制打が飛んでくる。
まどろっこしいやり取りはなくいきなり確信をついてきた。
この話題が出てくるとは予想はしていたが少し早過ぎる。
「おっしゃる通り卒業しようと思ってます。」
真っ直ぐに先生の顔を見て言う。
私の答えは決まっているのだから素直に言うしかない。
相手の情報が無い以上、変な小細工は逆に危ない。
「そうか。」
先生は何かを考え込んでいるようだが、表情からは何一つ読み取れない。
武士は刀を一太刀合わせただけで相手の技量がわかるというが、果たして私の心をどれだけ読み取ったのだろう。
その言葉から少しの沈黙が訪れる。
社長は何も言葉を発さずに先生を見ている。
二人共先生の次の言葉を待っていた。
「珠紀とダブルセンターをやる気はないか?」
先生の第二撃が私を襲ってくる。
全く違う角度からの斬撃に私は完全に不意を突かれた。




