夏蝉、鳴く 18
「それにしても、亜佑美さんも思い切った事しましたよね」
またスタッフの一人が私に問い掛ける。
「思い切った事?」
アイスコーヒーを飲みながら私は首を傾げた。
「柄本をあのグループの中に入れるって聞いた時、びっくりしましたよ!」
そういう事か。
私はもう一口、コーヒーを啜る。
スタッフの彼が言うのも無理はない。
今日、萌が一緒に踊っていたのはスタジオの中でも一番レベルの高いクラス。
将来的にプロの道に進もうとしている子。
すでにプロのダンサーに混じってステージに立っている子。
そんな子達が集まっている。
「萌なら大丈夫かなって思ってさ!ほら、あの子逆境得意じゃん」
"逆境"という言葉を使ったが、彼女が過ごしていた場所の事を考えればその意味も分かるだろう。
「そうでした。誰よりも経験豊富でしたね」
彼女は表舞台にいた。
それがどれだけ大変な場所か私も知っている。
あの中にいた生徒達の誰も経験値では彼女には敵わない。
「でしょ?日曜日だってそうだったじゃん?」
一昨日テレビに映っていたあの姿は誰よりも
ステージが似合っていた。
ステージでの立ち振る舞い方を誰よりも知っているからではない。
ステージが映える子なのだ。
「鳩崎センセ相変わらず鋭いよね」
誰にいうでもなく私は呟く。
それは一昨日の夜、私が依頼されていた曲の振り付けを考えていると鳩崎先生から電話が掛かってきた。
内容は先生から依頼されていた曲の振り付けに対する話。
タイムリーでその事を考えていた私は、幾つかの疑問点を質問しイメージを練っていた。
振り付けの話が一息ついた頃、話題は萌の話になった。
先生はインターネットで萌達の演奏を聴いていたらしい。
「近い内、近藤に連絡来るだろうな」
先生は笑いながら言った。
同じ事を思っていた私は驚く。
今の仕事の話といい、いくらなんでもタイミングが良すぎる。
先生は私を監視してるんじゃないかと思わず後ろを振り返って確認したくらいだ。
「もし連絡が来たら、私も全力で柄本を磨きますから」
久しぶりに私は胸が熱くなるのを感じていた。




