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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
夏蝉、鳴く
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夏蝉、鳴く 17

「今日も暑いね本当に!」

スタジオはエアコンがついているにも関わらず熱気が凄い。

きっと、生徒達の体温のせいだろう。

萌を送り出した後、快適なスタッフルームに戻りスタッフ達と休憩しながらコーヒーを飲む。


「亜佑美さんどうでした?柄本は」

スタッフの一人が私に尋ねてきた。

彼らは萌の事を知っている。

16区ナゴヤ発足当時から彼女達のダンスレッスンを私と共にやってきたからだ。


「萌、よくなってる。動きは悪いけど、表現力は上がってる感じかな。イメージ力が増してる感じあるよ」

萌が踊っているのを見てブランクがある事はすぐに分かった。

明らかに現役の時より動きが鈍い。

毎日踊っていた頃とは違う訳だし、仕方のない事ではあるのは分かる。


実際、技術的にも体力的にも一緒に踊っていた生徒の中で一番劣っていた。

その事は、彼女自身も踊りながら気づいていた筈だ。

けれど、動きの鈍さより曲への向き合いかたの方が目を引いた。

彼女の表現したいものがその動きから伝わってきたのだ。


「柄本って一つ一つの動きはベストじゃない場合多いですけど、全体的に見た時その演出感みたいなものが伝わってきますよね」

スタッフもその事には気づいていたようだ。


萌は技術よりも曲のイメージを大切にしている。

曲を分かろうとして踊っているからだろう。

メロディーや歌詞がダンスにとって必要であるという大前提の構築。

だから、どんな曲でも必ずイメージを持って踊る。

それは踊る人間にとって大事な事の一つだ。


鏡の前で完璧に踊るだけがダンスじゃない。

ファンの人に楽しんでもらえる方を優先する。

それが彼女なりのアイドルとしての考えなのだろう。


ただ、それが全てが正しい訳じゃないし、誰にでも当てはまる訳じゃない。

その事を萌自身もわかっている。


だから彼女は周りを認められる。


決して周りを拒絶しない。

自分に取り入れられるものは吸収するし、周りに与えることもできる。

それが、この世界で生き残っていく為に彼女が見出した道。

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