夏蝉、鳴く 16
ターンのやり方。
ターン自体の精度よりもその入り方。
どの様に身体を使い、どの角度でターンを開始するか。
どこで力を入れて、どこで力を抜くか。
2回目、3回目と踊る中、周りはどんどん精度を上げていく。
それにしがみつく様に必死に真似をする。
私は未熟だ。
ダンスなんて全然上手くない。
再び腰に手を当て呼吸を整える。
踊るのが好き。
それだけじゃこの人達にはついていけない。
面白可笑しくじゃダメだ。
大事な事が分からないままになってしまう。
ここで辞めるわけにはいかない。
私は見てしまった。
だからもう戻れない。
その日の練習が終わった頃には立つのがやっとになっていた。
更衣室のロッカーにもたれかかり、天井を見上げている。
もう踊れない。
今日はこれ以上は気力が保たない。
こんな状態久しぶりだ。
「お疲れ様です!」
一緒に踊っていた人達は身支度を終え立ち上がる。
「あ、お疲れ様です!ありがとうございました!」
私は壁を押す反動で身体を起こす。
そして、お辞儀をした。
それだけで少しふらつく。
「じゃあ、またね」
そう言って更衣室から出て行った。
扉が閉まる音だけが部屋に響く。
私もやっとの思いで身支度を済ませ更衣室にお辞儀をしでていく。
正直鞄を背負うのすら辛い。
「お疲れ様!なかなか出てこないから心配した!」
部屋を出ると亜佑美先生が待っていてくれた。
私が体力尽きている事に気付いているのだろう。
私を見て笑っている。
「今日は貴重な時間をありがとうございました!」
再びリュックの重みが背中にのし掛かる。
さっきとは違い足に力のない私は重みに耐えるのに必死だ。
「気にしないで!毎週この時間はレッスンに入ってる訳だし」
先生はスタジオの玄関まで私を見送ってくれた。
「じゃあまた来週ね!」
そう言われた私はまた頭を下げ、スタジオを後にする。
”じゃあまた"
その言葉を何度も頭で再生する。
何にも出来なかったと落ち込んでいたけど、少しだけ認めて貰えた気になれる。
ん?また来週?
またという言葉に喜んで気にもしていなかった。
その意味が気になるが先生に聞くのは家に着いてからにしよう。
ふらつく足を懸命に進めながら駅へと向かうのだった。




