夏蝉、鳴く 15
私は今、台風の中にいる。
踏ん張っていないと吹き飛ばされそうな暴風の中に。
一人一人のダンスが風となり、ぶつかり合う。
その衝撃が乱気流となり私を襲っていた。
自由に踊れない。
目の前にいる人達はあんなに伸び伸びと踊っているのに。
周りの風圧に圧倒されしまう。
1回目のダンスを踊り終わった後、私は大きく息を吸った。
やっと呼吸できる。
上手く息が吸えず肩で息をしている自分。
こんなに息が上がっているのは久しぶりだ。
腰に手を当てながら息を整える。
今すぐにでも座りたいのだが、腰を下ろしたら立ち上がれない為、座ることができない。
周りの人達も汗をかいているものの、お互いに振り付けを確認している。
体力的にも余裕なのだろう。
気づいてはいたが、この人達はダンスの基礎体力が段違いだ。
アイドルとして踊ってきたものとはダンスの質が違う。
とんでもない所に来てしまった。
亜佑美先生に頼んだ時から、覚悟はしていたが私の想像をこえている。
5月にお世話になった時はこんなんじゃ無かった。
いくらなんでも私の身の丈には合わない。
身震いする。
そしてペットボトルの蓋を開け水を飲む。
「それじゃ始めるよ!」
そういうと、亜佑美先生が曲を掛けた。
ダンスを踊る。
周りの人達の振りをなぞりながら。
同じ様にターンをし、同じ様にステップを踏み、同じ様に腕を広げる。
目の前には、私より何倍もダンスの上手い人だらけ。
今私がついていくにはその方法しかないのだ。
自分はダンスが踊れる方の人間だと思っていた。
グループでは誰よりも早く振りを覚えられるし、身体は自分の思った通りに動いてくれる。
でも、ここにいたら全くついていけない。
"まただ"
真似をしていても吹き飛ばされそうになる。
同じような動きをしているのに。
なぜあんな華麗なステップを踏めるのか。
このスピードでターンしても素早く次の動きに移行出来るのか。
どこかに決められたコツがあるはずだ。
周りの人達は間違いなくそれが見えている。
なのに、私にはそれが見えていない。




