夏蝉、鳴く 13
こんな都会でも蝉は鳴く。
不思議に思っていた。
蝉達はこんな木のない街でどこで生まれどこで鳴いているのだと。
蝉の声を聴きながら私が向かったのは、ダンスレッスンなどを行なっているスタジオ。
そこでは大人から子供まで様々な年齢、レベルの人達がダンスを磨いている。
私がアイドルだった頃、よく通っていた場所だ。
スタジオの扉を開けると、変わらない景色が広がっていた。
鏡張りの部屋が何個も並んでおり、練習している人がいるのか音楽が漏れてくる。
「久しぶりね萌!髪短くなって女子高生っぽくなったじゃない」
中に入り、受付で待っていると長身でスタイル抜群の女性がやってきて声をかけてきた。
「お久しぶりです!私、これでも現役の女子高生ですから!」
そんなやり取りをして笑いが起きる。
声を掛けたのは近藤亜佑美先生。
アイドル時代、ダンスを教えてくれていた人。
私はこの人に会う為に今日ここに来たのだ。
「急に連絡してすみませんでした」
軽く笑い合った後、私は深々と頭を下げた。
リュックを背負ったままだった為、その重みを背中にしっかりと感じる。
「大丈夫よ!萌の事だから連絡してくると思ってた」
そう言って先生は笑う。
ウェーブのかかった見事なブロンドの髪をかきあげながら。
昨日自宅に帰った後、先生に電話をかけた。
流石にすぐには出ない。
先生は忙しい為、いつもすぐには連絡が取れる訳ではないのは知っている。
ただ、一度連絡を取れば必ず返信をくれる為、気長に待とうと思っていた。
待っている間にダンスの感覚を取り戻しておけばいいと。
ところが、予想に反しその日の夜に連絡が返ってきた。
少し驚きはしたが、ダンスのレッスンをして欲しいという旨を話したら、快く快諾してもらえた。
予約を取る為に、先生の空いている日時を聞いたら
「明日学校終わったらきなよ!」
と言われ今に至る。
「亜佑美先生にはなんでもお見通しですね」
私の考えそうな事を予想して予定を開けてくれていたのだろう。
やはり先生には敵わない。
そう思った。




