夏蝉、鳴く 10
「え⁉︎萌さん来てくださるんですか?」
彼女は目を見開き肩に掛けていた鞄を落とす。
「うん!知美ちゃんにはお世話になってるし、選手としての姿も見てみたい!」
彼女達は各々の分野のかなり高いレベルの人間だ。
全国の強豪達と凌ぎを削っている。
競技の厳しさを知っているため驕らない。
万全の準備をしているからこそ、大会前は冷静を保てるのだろう。
「萌さんが来てくれるなら俄然頑張れます! 必ず表彰台立ちます!」
先程までなかった熱さが垣間見える。
この反応。
やっぱり加奈子ちゃんと似ている。
応援に行きたいと言ったのは、もちろん思いつきじゃない。
彼女の力に少しでもなれればと思っての言葉だ。
私には到底測り得ない所にいる彼女達。
共通点は16区ナゴヤのファンという事。
それだけで、私に尊敬の眼差しを送ってくれる。
それなら私も2人の力になりたい。
今の私に出来る事は応援くらいしかないから。
その後、今岡先輩の家の近くまで知美ちゃんと一緒に帰ることにした。
いくら明るいからとは言え、すでに時計は8時近い。
中学生の彼女を一人で帰らせるのは危険だ。
「そういえば昨日、久しぶりに珠紀に会ったよ!」
せっかくなので、昨日の出来事を彼女に話す事にした。
本当に珠紀の事が好きなのだろう。
私の話を目を輝かせながら聞いている。
「お兄ちゃんそんな話、一言もしてくれませんでした。珠紀さんに会ったなんて羨まし過ぎます!」
先輩達も少しだけ珠紀に会ったというと、彼女は少しむくれた顔をした。
家に帰ったら先輩は身に覚えのない八つ当たりに合うのだろう。
少しまずい事を言ってしまった。
「先輩も昨日は大変だったから。そんな事言わないであげて」
先輩の身を案じ助け舟を出す。
まあ、私が原因なのだからなんとかしなくてはいけないのは当たり前なのだが。
「そうか!昨日はお兄ちゃんもステージに上がったんですもんね」
昨日は一応3次選考がメインイベント。
本来、今岡先輩達が主役なのだが知美ちゃんからすればそんな事は大した問題じゃないのだろう。
16区ナゴヤと同じステージに立ったという事実が大切なのだから。




