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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
夏蝉、鳴く
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夏蝉、鳴く 4

職員室を出て一人廊下を歩く。

夏休みの為か、誰ともすれ違わない。

そのせいか音がよく響く。

廊下を歩いていても外からは沢山の音が漏れてくる。


吹奏楽部の楽器の音や、野球部の声出し、公式テニス部の打球音。

熱量のある音達。

人の活気が伝わってくる。


私は感動していた。

夏休みの学校の風景とはこういうものなのだと。

去年までの夏休みといえば、イベントやテレビ出演のお仕事が増え学校にいる事は殆どなかったから。

初めての経験に気分の上がったまま下駄箱に行くと、加奈子ちゃんが待っていた。


「ごめんね!遅くなっちゃった!」

私達は一緒に学校を出た。

夏期講習はいつもの授業よりも早く終わる為、彼女はレッスンまで時間が空く。

という事で、駅前にあるドーナツ屋で時間を潰す事になった。


「大丈夫でしたか?」

砂糖がたっぷりとコーティングされたドーナツを皿の上に積み上げた加奈子ちゃんが私に聞く。


「大丈夫だったよ!先生達も私の事を心配してくれてるみたい」

私はブラックコーヒーを飲みながら答える。

ここのコーヒーは少し苦味が強い。

甘いドーナツに合わせているのだろう。


しかし、私の前にドーナツはない。

本当は食べたかったのだが我慢した。

昨日食べた焼肉が頭をよぎった為だ。


昨日は加奈子ちゃんにつられて食べ過ぎた。

それを証明する様に、朝起きて鏡を見たら顔がむくんでしまっていた。

もし今日こんな砂糖たっぷりのドーナツを食べたら明らかにカロリー超過。


ただでさえ、学校の生徒達に注目されている今、丸くなった私を見られたくない。

卒業して太ったなんて思われたら恥ずかしく学校に行けなくなる。

元アイドルのプライドというか、女子としての潜在意識がそれを許さないのだ。


体型維持にはそれなりの知識と我慢が必要である。

少なくとも私はそう思っていた。

周りも同じ様に努力していた事も知っている。


それを嘲笑うかの様に好きなだけドーナツを食べる細身の加奈子ちゃん。

このコーヒーの苦味はそんな世の中を象徴しているのかもしれない。

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