夏蝉、鳴く2
アイドルが沢山いる時代。
様々な個性がひしめき合っている。
私達「区グループ」もその一つ。
日々しのぎを削り合っていた。
夢のある華やかに見えるそのステージは、夢破れた多くのアイドル達の涙の上に成り立っている。
私の様に円満に卒業出来たアイドルはほんの一握り。
事務所の都合で解散を余儀なくされたグループや、心身の限界で辞めていく子、一度も憧れのステージに立つ事なく諦めた子。
そういう背中を沢山見てきた。
元アイドルという肩書きは見栄えはいいが、一度芸能界という暴風の中に踏み込むとすぐ吹き飛ばされてしまう。
世の中に元アイドルという肩書きの人が沢山いる以上、実力がないと生き残っていけない。
あくまでアピールポイントの一つにしかならないのだ。
「やっぱり厳しい世界なんですね。音楽業界って」
そう言っている加奈子ちゃんは少し安心した様な表情を浮かべた。
言葉と表情が矛盾してる。
なぜ彼女がそんな表情をしたのか。
私にはまだその謎を解く事は出来なかった。
昼休みが終わり、私達は渡り廊下を歩く。
「あの、16区ナゴヤの柄本萌さんですよね?」
すれ違った女子生徒の集団の中の一人が私を呼び止める。
「そうです!一応、元ですけどね」
私は瞬時にアイドルスイッチが入り、笑顔で振り向く。
「本物だ!凄い!顔小さいですね!」
女子高生は興奮した様子だ。
「そう言って貰えて嬉しいです!ありがとうございます!』
握手をすると周りにいた友達らしき子達の元に嬉しそうに帰っていった。
頑張ってくださいという言葉を残して。
上履きをよく見るとさっきの女子生徒は私より先輩だった。
私のいる学校は学年によって上履きの色が違う。
この学校に来て日が浅い私はそういうものでしかまだ先輩後輩の区別が付かない。
自分より先輩の方々まで私に声をかけてくれる。
しかも、同性の方が。
ファンの方に優劣を付けたりする訳ではないが、やはり同性のファンの方がいると嬉しい。
そんな喜んでいる私の横で嬉しいような、悲しいような合間な表情を浮かべる加奈子ちゃんの表情に気づかぬまま渡り廊下を歩くのだった。




