夏蝉、鳴く 0
3次選考が終わった翌日学校へ向かう道を歩く。
いつもの様にラジオを聴きながら。
聴いているのはもちろんアルコビーツさんの番組。
昨日の事を思い出すと口元が緩みそうになる。
本物を見た後に聴く2人の番組は格別に面白い。
それだけじゃない。
昨日は心を動かされる出来事が沢山あった。
感情が流星のように行ったり来たり。
最終的に空っぽになるくらいに。
そのおかげか、今日はなんだか清々しい。
学校の門をくぐりヘッドホンを耳から外す。
ヘッドホンをカバンに仕舞い、スニーカーから上履きに履き替える。
ヘッドホンを外したら賑やかな声が耳に入ってきた。
何かあったのだろうか。
教室に人だかりが出来ている。
「あ、柄本さんがきたぞ!」
教室に近づいた時、1人の男子生徒と目が合う。
すると彼は人だかりに向かって叫んだ。
その声で人の塊の視線が一気に私へと集中する。
意識に反して硬直する自分の身体。
清々しく感じていた朝は、一瞬にして消え去っていった。
「萌さん大丈夫ですか?」
昼休み、いつもの教室でぐったりとする私を心配する加奈子ちゃん。
「大丈夫じゃないよー。急すぎるって」
夏休み、ただでさえ夏期講習で大変なこの時に私に新しい問題が発生した。
「皆さんやっと萌さんの凄さに気付いたんですね!」
彼女の嬉しそうな顔に対して文句は言えないが、私にとっては嬉しくない状態だ。
遂に見つかった。
この言い方が合っているのかは分からないが、私が元16区ナゴヤの柄本萌である事が学校中に広まってしまったのだ。
きっかけは昨日の3次選考での私の発言。
それを見ていた人達がその部分を切り取りSNSで投稿し話題になっていたようだ。
隠していた訳ではないのだからこうなっても仕方ないのだが、約3ヶ月音沙汰も無かったせいで感覚が麻痺してしまっていた。
昨日の出待ちがいない事にムカついていたくせに、急に人気が出て対応しなくてはならなくなると困るという。
自分都合過ぎて何処かで痛い目に合うかもしれない。




