卒業のあと 25
マネジャーの背中を見送り、私は再び事務所に身体を戻す。
とりあえず、受付に行く事にした。
「あのすみません。事務所に来るように来るように言われてきたのですが…」
受付の女性に声を掛ける。
おしゃれな事務所に合うおしゃれな女性だなと思う。
姿勢もよく大人な雰囲気を醸し出している。
その姿を見るとちょっと背筋が伸びる。
「カードキーはありますか?」
見惚れていた私は慌ててカードキーを渡す。
笑顔で受け取った女の人は手際よくカードキーをスキャンし、パソコンを操作する。
その姿もオシャレに見える。
それに比べて、あたふたしている自分の事を思うと恥ずかしくなり少しうつむく。
そのせいで、受付の女の人の顔が少し強張ったのを私は見逃してしまうのだった。
「こちらのエレベーターにどうぞ。」
受付ブースを出た女の人にエレベーターに案内される。
その立ち姿も綺麗だ。
私が乗り込むとエレベーターのドアが閉まる。
女の人と2人きり。
沈黙のままエレベーターは上昇する。
隅っこで緊張して小さくなる私。
オフィスを含め3階までしかない筈なのにやけにエレベーターが上がるのが遅く感じる。
3階に着き扉が開く。
私がお礼を言ってエレベーターを降りると、女の人が私を見つめて口を開く。
「そのまま右手の突き当たりの部屋に行ってください。そこでお待ちですから。」
そういうと、笑顔で会釈し扉を閉める。
会釈を返し扉が閉まったのを確認すると、私は大きくため息をつく。
風船から空気が抜けるように、緊張が一気に抜けていく。
すでに肩こりが凄い。
軽く肩を触りながら指定された部屋へと向かう。
5つある部屋の中で一番奥。
一度も行った事のない部屋だ。
それが特別な部屋だという事は知っている。
2年間経っても行く事のなかったのだから人生で行く事はないと思っていた。
突き当たりの部屋にたどり着く。
社長室と呼ばれる部屋の扉の前に私は立ったのだった。




