たりないぶたい 49
「加奈子ちゃん起こしてくれてありがとう!危うく乗り過ごすとこだった!」
寝起きでいきなり動いたせいかいつもより呼吸が荒い。
電車で寝過ごしかけるという初めての経験。
まだ頭が理解しきっていない。
「危なかったですね!私も起きれてよかったです」
今回は彼女の体内時計に感謝するしかない。
やっぱり次に焼肉行く時も食べ放題ではない方がいいだろうか。
考えを改める必要があるかも知れない。
駅で彼女と別れ帰り道を歩く。
いつものようにヘッドホンを取り出して耳に付けようと思ったがやめた。
聴きたい曲がなかったのだ。
曲が悪い訳じゃない。
ただ、今の気分に合わないだけ。
7月も終わりかけの夜。
夏も本番になって来たせいかこの時間になっても暑い。
時々風が吹いてくるのだが申し訳ない程度。
額には汗が浮かぶ。
頭が回らない。
何にも考えたくない。
自分の中の1日の許容量が一杯になってしまったみたいだ。
家までの道のりがとても遠く感じる。
やっとの思いで家に辿り着く。
リビングに行くと父も母もソファーに座りテレビを見ていた。
「ただいま」
それだけ言うと私は階段を上がり自分の部屋へ。
部屋に入るとベースを立てかけ、トートバッグを机の上に置く。
そしてそのままベッドに倒れ込んだ。
水筒も洗わなくてはならないし、メイクも落とさなくてはいけない。
やらなくてはいけない事が頭に浮かぶが、肝心のベッドから立ちあがる気力が沸かない。
まぶたが重い。
ゆっくりと視界がぼやけていき、私の意識は布団の中に埋れていく。
その時電話が鳴った。
一気に現実に戻される。
電話に表示されてるのは一階にいる筈の母の名前。
寝ぼけて見間違えたのかと思ったが何度見直しても母の名前だ。
「ちゃんと化粧は落としてから寝なさい」
それだけ言うと母は電話を切った。
流石母である。
私の事はなんでもお見通しだ。
ベッドから起き上がり部屋を出る。
眠気眼を擦りながらリビングに戻ると母は私を気にする様子はなくテレビを見ていた。




