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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
たりないぶたい
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たりないぶたい 47

一度泣いていると頭が認識してしまったらもう止める事は出来ない。

とめどなく溢れてくる涙。

ここが焼肉屋でよかった。

お肉を焼く音が私の泣き声を消してくれるから。

この涙の意味は自分でも分かっている。


ファンの方々の顔が私の頭の中に浮かぶ。

アイドルとして未熟な私をずっと応援してくれた。

私が音楽の道に進むため卒業を決めた時も、笑顔で背中を押してくれた人達。


あの時、発した言葉に後悔はない。

だけど、本当にこれでよかったのだろうか。

ファンの人達は今の私を見て落胆しないだろうか。


悔しい。

とにかく悔しいのだ。

自分の実力のなさが。

観客に噛み付くしかなかった私の未熟さが。


下を向き涙を流しているとハンカチがそっと私の涙を拭う。

横を見るとそこには小高さんが立っていた。


「お疲れ様でした。今日1日よく頑張りましたよ!」

優しく肩を叩かれまた涙が溢れる。

いつもは慰める側は私なのに今日は彼女が凄く大人に見える。


“泣き過ぎだよ。まだまだニワトリにはなれないな。ぴよちゃんは“

そう言えば私が泣いた時、あの人もこうやって寄り添ってくれたっけ。

思い出のトニックウォーターがそんな事を思い出させてくれる。


ないものだらけで、足りないものだらけで、大人の振りしてまだまだ子供。

結局私は!とか言ってすぐ逃げようとする。


「加奈子ちゃん…」

そんな厄介な自分も全部今日は涙で流す事にした。

彼女の、加奈子ちゃんの前で強がったって仕方ない。

アイドルでいる必要はもうないのだ。


ひと泣きしたらお腹が空いた。

私は目の前にあるお肉を食べ始める。

加奈子ちゃんは少し驚いた顔をしたけど、また笑って席に戻った。


「あ、そうだ!私の事、柄本さんじゃなくて萌でいいよ!友達はみんな名前で呼ぶしさ!」

私がそういうと加奈子ちゃんは突然涙を流し始める。

さっきまでの大人な彼女は何処へやら。

またいつもの彼女だ。

私は自分のハンカチを彼女に渡す。


私達は似たもの同士のたりないもの同士。

その事に気付かされる。

やっと彼女との距離が近付いたのだった。

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