たりないぶたい 45
このままだとお肉にありつけない。
いつもなら妥協するのだが今日は違う。
今日は私が焼肉に行きたいと言ったのだ。
サラダを食べ終え、気持ちを切り替える。
これは私が思い描く打ち上げではない。
ましてや、女子力なんてまるで考えていない。
沈黙のテーブル。
肉が焼ける音だけが2人の間に流れている。
周りのテーブルでは楽しく会話をし食事を楽しんでいる様だが、私達は違う。
ここらからが小高さんとの真剣勝負。
気を緩めたら負ける。
お互い真っ直ぐにロースターの上のカルビを見つめていた。
箸がお肉に向かって一直線に伸びる。
どのお肉をいつ焼き始めて、いつひっくり返したか。
そして、焼き上がりそうなお肉の位置、その全て記憶している。
それは小高さんも同じ。
高度な記憶力合戦が続く。
私の箸が敵陣のお肉を掴み取る。
このお肉は小高さんが密かに育てていたお肉。
私は見逃さない。
お肉を取られ動揺した彼女に対し、畳み掛けるように敵陣のお肉を連取する。
喜んだのも束の間、自陣のお肉に彼女の箸が伸びる。
油断した。
ひっくり返して頃合いを見計らっていたお肉なだけに悔しい。
やはり小高さんは頭がいい。
学年1位なだけはある。
こうやって箸を交わすと彼女の実力をひしひしと感じられた。
「そういえば乾杯してなかったですね」
一通りお肉を奪い合いお腹も満たされ始めた頃、ようやく小高さんが箸を置く。
お肉が焼ける前の彼女の表情に戻っていた。
「確かに!今更だけど乾杯しようか」
私はトニックウォーターの入ったグラスを掲げる。
小高さんも笑顔でグラスを差し出す。
トニックウォーターとトニックウォーターの乾杯。
彼女もこの飲み物を気に入ってくれた様だ。
「今日一日お疲れ様でした!」
グラスとグラスを合わせる。
重なった瞬間、炭酸の泡が弾け消えていく。
なんだか女子会の様な時間が流れ始めた。
何度も言うが、これも私の思い描く打ち上げではない。
焼肉屋に入って1時間半が過ぎた。
ようやくまともな会話が始まる。




