たりないぶたい 43
トニックウォーターなる横文字の飲み物をあたかも飲み慣れているかの様に頼む。
あくまで自然に。
店員さんにカッコつけて頼んだとおもわれない様に。
私はトニックウォーターが好きだ。
焼肉に限らずお肉を食べる時は必須の飲み物と言っても過言ではない。
柑橘系の爽やかさがお肉の力強さを引き立たせてくれるからだ。
こういう時はハーモニーという言葉を使うのにぴったりだろう。
ただ、トニックウォーターなんていう明らかにオシャレな名前が付いているせいで注文しにくい。
まだ高校生の私が注文すると大人の真似をして背伸びしていると思われるのではないかと考えてしまう。
でも、頼みたい。
それだけの価値がトニックウォーターにはある。
「柄本さんの分のサラダです!」
私が葛藤している間に小高さんがサラダを取り分け終わり私に渡す。
「あ、ごめん!ありがとう!」
綺麗に盛り付けられたサラダの乗ったお皿。
女子力の差に愕然とする。
飲み物一つ頼むだけで緊張していた自分が恥ずかしい。
「トニックウォーターってどんな飲み物なんですか?」
なんてタイムリーな質問をしてくるのだろう。
私の心の中でも読んでいたかの様だ。
「ライムの味のするソーダだよ!飲んでみる?」
トニックウォーターの中の柑橘類は種類によって様々だが、このお店ではライムを使っている。
私は自分の飲みかけのグラスを小高さんに差し出す。
「あ、美味しい!」
一口飲んだ彼女は新しい発見に驚いている。
「柄本さん大人な飲み物よく知ってますね!」
小高さんに悪気がないのはわかる。
だけど、私が気にしている事を的確に突かれ下を向きたくなる。
「私もね、人に教えてもらったんだ」
それは私なんかよりずっとこの飲み物が似合う人。
その人に勧められて飲み始めた。
だから、自分が背伸びしている様で恥ずかしいのだ。
「そうなんですか?ならその人も大人なんですね!」
言われてみればあの人は確かに大人だった。
一緒にいる時間が長かったからわかる。
私と一つしか違わないのに。




