たりないぶたい 39
私達は無名、ましてやお客さんにあんな喧嘩を売ったのだ。
そりゃ出待ちしてくれるファンなどいる訳がない。
自分の自尊心を否定して、彼らの隣を通り過ぎる。
「やっと出てきたか!またな!」
「fishing is good」のボーカルの人がファンサービスをわざわざ中断し私達に手を振る。
"またな"
お世辞かもしれない。
でもこの言葉は嬉しかった。
先輩達と一緒に手を振り彼らに別れを告げ歩き出す。
外の景色が赤く色づき始めている。
でも、目が痛い。
耳鳴りもすごい。
そういや背中もヒリヒリする。
緊張が溶けると色んな感覚を取り戻していく。
「本当にすいませんでした」
先を歩く先輩に私は再度謝罪する。
取り戻した感覚の中で一番大きなもの。
罪悪感。
それが後ろを歩く私に重くのし掛かる。
「だから気にするなって」
今岡先輩は呆れた顔で振り向く。
「なんやかんやであんなお客さんの前で演奏できて楽しかったしさ!」
今岡先輩だけじゃない横井先輩も。
「そうだぜ!めちゃくちゃ緊張したけど、柄本が盛り上げてくれたおかげでギターソロ超気持ちよかったし!」
豊田先輩も振り向き私を慰める。
というか、豊田先輩は果たして緊張していたのだろうか。
その疑問を今解き明かすには気力がたりない。
「また別の方法を探そうぜ。まだまだ始まったばかりだろ」
私達の戦楽フェスは終わった。
今岡先輩の言葉がその事実を私に突きつける。
こんな事になったのは私のせいなのだ。
気にしない様にする方が難しいだろう。
「またやりたいな!あんなでかいステージでさ!」
豊田先輩はまだあの時の感覚が醒めていない様だ。
いつもよりも、いや、いつもより饒舌になっている。
「そうだな!この4人でまた頑張って行こう」
先輩達は立ち止まり後ろにいた私を待っている。
3人で並んで歩く先輩達の隣に並ぶ。
後輩の私が並んで歩くのは生意気かもしれない。
多分通行人の邪魔になっているに違いない。
でも、今日だけは許してほしい。
少しだけ緊張しながら隣を歩くのだった。




