たりないぶたい 37
私は涙を拭い顔を上げる。
きっと化粧も崩れてるし、目も腫れているだろう。
人前に出すにしては酷い顔だ。
でも、私は笑って前を向いた。
先輩達に支えられながら。
長い1日が終わろうとしていた。
10組のバンド達は控え室でその時を迎える。
本来ならもう一度ステージに上がる予定だったのだが、放送時間の関係で取りやめになった。
だけど本当は私達の影響だろう。
申し訳なく思った私は控え室にいたバンドの人達に謝った。
皆さんは怒る事なく許してくれ、また泣きそうになったが必死に堪える。
泣いてしまったらまた気を使わせてしまう。
それに、せっかく化粧も直したのだ。
もう酷い顔は見せられない。
朝から始まった3次選考も幕を下ろし、あれだけお客さんのいた観客席は綺麗に誰も居なくなった。
スタッフの方が撤収作業で慌ただしく行き交うだけ。
控え室でもそれぞれのバンドが帰り支度を始めていた。
私達も帰り支度をしながらため息を一つ。
一日の疲れが一気に押し寄せていた。
今日一日色々ありすぎて、すでに身体は許容範囲を超えている。
なんなら頭も既に空きがない。
所謂、身も心も限界というやつだ。
そんな身体を引きづりながら私はある事を思い出し控え室を出る。
向かった先はスペーシー平尾さんの楽屋。
素人である私は本来行っては行けないのだが、スタッフの方に訳を話し特別に許可してもらった。
緊張で震える手でスペーシー平尾さんの楽屋の扉をノックする。
すると平尾さんは自ら扉を開け出迎えてくれた。
「今日はご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
楽屋に入った私は今日の騒動を謝罪する。
こんな形で憧れのアルコビーツに会うことになるなんて思ってもいなかった。
もっといい出会い方をしたかったのだが、そんなわがままは言えるわけもない。
「そんな事気にしなくて良かったのに。わざわざごめんね」
初めて生でみるスペーシー平尾さん。
やはり大きい。
肩幅のせいか身長以上に大きく感じる。
でも、モニター越しに見て感じていた威圧感はなく、とても優しさを醸し出していた。




