たりないぶたい 35
萌の声が観客席に響く。
一瞬で静寂に包まれるライブハウス。
しかし、再びヤジが飛びはじめる。
「アイドルだ?ファンに媚を売るようなそんなものに音楽を感じない!」
「メディアは写すところがおかしすぎる!本当に評価されるべきものがお前らのせいでかき消されていくんだ!」
「ファンに甘やかされていたやつに音楽なんて出来るもんか!」
テレビ越しに見ている私達ですら心に刺さる辛辣な言葉。
それを直に受ける萌。
泣いたってその場から逃げ出したっておかしくない。
でも、驚く事に萌は再びマイクを持つ。
「私はなんと言われても、16区ナゴヤを今も愛してるし誇りを持ってる!
例え離れていたって、今は違う道を歩いていても関係ない!
隠す気なんてさらさら無い!
あなた達がどれだけ偉くたって、私より演奏が上手くたって、いい音楽を聴いていたって私が!私達があなた達を見返してやる!
音楽の前ではどんな人でも平等だって!
みんなを感動させる力のあるものだって認めさせる!」
萌の顔がテレビ画面にアップで映し出される。
その目は真っ直ぐに観客席を見つめていた。
2度目の静寂。
「以上!vacant landのみなさんでした!ありがとうございました!」
その隙にスペーシー平尾さんが退場を促す。
萌達のバンドはステージに頭を下げ袖へとはけていったのだった。
「これが今さっき起きた事…」
里未ちゃんは話終えると同時に肩を震わせ涙を流す。
里未ちゃんは元々泣き虫だ。
だから泣ている姿よくみるけど、今日はその姿が心に刺さる。
「16区ナゴヤさん収録の準備出来ましたので、スタジオまでお願いします」
テレビ局のADさんが私達の楽屋を開ける。
静まり返った楽屋で、しかも1人は泣いている状態。
明らかに困った顔をしている。
「ピヨちゃんみたいに私達も頑張らないと!音楽でみんなを感動させれるようにさ!」
泣いているキャプテンに変わり、1人のメンバーが声を上げる。
萌ちゃんの事をこのあだ名で呼ぶのはメンバーの中で1人しかいない。
それは萌ちゃんと一番仲の良かった人。
今は私の隣で踊る人。
彼女の背中に導かれるまま、私達は楽屋を出るのだった。




