たりないぶたい 34
「柄本さんちょっと話聞いていい?」
スペーシー平尾さんの合図でスタッフの方が萌にマイクを渡す。
「はい!こんにちは!ベース、コーラスを担当している柄本萌です」
萌は戸惑う事なく自己紹介をする。
アイドルをやっていただけあってインタビューには慣れたものだ。
ただ、心なしかスペーシー平尾さんを見る目が輝いて見えるのは気のせいだろうか。
「柄本さん、16区ナゴヤを卒業してからバンドのメンバーとして上がったステージはどうだった?」
そんな目線に気付いているのかは分からないが、質問は続く。
「久しぶりのステージで緊張しました。でも、こんなお客さんの前で演奏出来て、歓声を頂けて、アイドルの時とは違った達成感を感じれました!」
感想としては100点満点の回答。
ボーカルの子の流れなら歓声が上がってもおかしくない
でも、会場は16区ナゴヤの名前が出るたびに冷めていく。
「やっぱり久しぶりのステージは緊張するんだね!卒業した後に見る彼女達のパフォーマンスってどうだった?」
スペーシー平尾さんもそれに気付いている。
しかし、一度質問を始めてしまった以上いきなり話題を変える訳にはいかない。
変に話題を変えてしまったらお客さんも納得してくれないだろうから。
「彼女達のパフォーマンスは控え室のモニターで見ていたんですけど、相変わらず全力で私もステージにあがる勇気を貰えました!」
冷めた空気は遂に不満に変わる。
観客席が少しずつ騒がしくなっていく。
「アイドル上がりが音楽なめるな!」
その声が皮切りだった。
「早く下がれ!」
「お前がステージ語るな!」
観客席から次々とヤジが飛ぶ。
なんとか事態を収集しようとするスペーシー平尾さんだが、その声はかき消されてしまう。
罵声を浴びせられる萌達。
このままでは収集がつかなくない。
そんな状態の中、萌がマイクを口に近づける。
そして観客席に向かって叫んだ。
「ステージが好き!セッション好き!音楽が好きだったら私が元アイドルだからって先輩の曲を否定しないで!」




