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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
たりないぶたい
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たりないぶたい 32

モニターに映る萌の口角が上がっていた。

喜びを顔に出さない様に我慢するさまはまさに子供。

背伸びをしていない素の16歳の柄本萌が垣間見える。

こんな時に周りを振り回す度胸。

アイドルだった頃から変わっていない。

まあ、メンバーに合図する様になっただけ成長したと言えよう。

なんだか嬉しく、そして誇らしい。


ギターソロをやり切ったギターの子は慌てて自分の立ち位置にもどる。

アドリブに余り慣れていないせいか、演奏に集中し過ぎたのか。

とにかく、ボーカルの子と立ち位置が被らなくて良かった。


そんなアクシデントがあったものの、ボーカルの子と萌はマイクの前に再び戻る。

2人共さっきまで慌てるギターの子の姿を見て笑顔を見せていたが、マイクの前にだった瞬間

真剣な顔になる。


人の血が通い始めた。

曲が大サビに入った時、私は息を飲む。

今までの演奏とは打って変わっていたから。

それまでの鏡の前で歌っている彼らはもうない。

真っ直ぐにお客さんを見て演奏している。

肩の力が抜けたのか演奏する姿を見ていてもなんだか楽しそうだ。


少しの変化かもしれない。

ありがちなきっかけ。

だけど、彼らの良さはありがちで引き出されていく。


重なる音。

このバンドが一番大事にしているであろう部分が更によくなっている。

今までよりちゃんとバンドメンバーの音を聞いている証拠だろう。

ボーカルの子の声とコーラスの萌の声が混ざり合いより一層深みを増していた。


曲が終わろうとしている。

もっと聞いていたかった。

そう思えるステージだった。


ボーカルの子の声もコーラスの萌の声にも力が入る。

お客さんはメロディーに乗り身体を揺らす。

萌の派手なシャツの事など気にならない位、ステージ全体が魅力を放っていた。


最後の音がライブハウス、しいては私達の楽屋に響く。

その音が途切れた瞬間、お客さん達が静寂を思い出す。

そしてまた静寂を忘れる様に歓声がライブハウスを揺らす。

ステージに上がった時、驚いて固まっていたバンドの姿はもうそこにはなく、やり切った顔をする4人の姿がテレビに映し出されていた。

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