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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
たりないぶたい
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たりないぶたい 29

ボーカルの子がギターを鳴らす。

押さえ込んだ気持ちを一気に吐き出す様に。


モニターのスピーカーからはギターの音だけが流れてくる。

とても静かだ。

でも、私達のステージの時とは違う静寂。


映し出される観客席の映像。

お客さんは真っ直ぐにステージを見つめている。

私達の時の様な冷ややかな目じゃない。

ギターの音に耳を傾けている。

ギターだけじゃない。

そこから重なってくるドラムやベース。

その確かな音を聞いている。


派手さがない。

はっきり言ってしまえば地味。

それが初めて触れた萌達のバンドの印象だ。

自分で曲も書いた事もない。

ましてや、一端のアイドルでしかない私が言うのもおこがましいかもしれないが。


でも、お客さんは聞き入っている。

身体を左右に揺らし音に寄り添う。

一緒に観ていたメンバー達も同様に身体を揺らし、演奏に聞き入っている。

初めて曲を聞く人もいる筈なのに。


演奏が特別上手い訳じゃない。

でも音が重なった時、とても聴き心地がいい。

そういう曲の作り方をしてるのだろう。

だんだんギターの音が耳に染み込んでいく。

たまに鳩崎先生も同じ事をやるからなんとなく分かる。


聴いていくと少しずつ分かってきた。

このバンドに派手さがないと感じた理由。

重ねる音を大切にしているからだ。

敢えて背伸びをしない様にして、1人の力量では出せない音を作る。

個性をぶつけ合う荒々しい感じとは違い、爽やかさが出るのだろう。

だから、お客さんも自然と身体を左右に揺らす。


萌がこのバンドにいる理由も分かる。

彼女はそういう感じが好きな子だから。


”いいバンドだな"

萌しか知らない。

メンバーがどんな人かも分からない。

でも、なんとなくそう思う。


彼らは他の楽器をよく聞いて演奏している。

ステージでの立ち振る舞いはまだ辿々しいが。


ダメだ!

このままじゃ泣いてしまう。

少し気を抜くと涙腺が緩む。

他のメンバーにバレない様に必死に涙を堪える。

じゃないと、また泣き虫と言われてしまう。


幸いメンバーは演奏を見るのに夢中で私が目頭を抑えていることなど気づいていない様だ。

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