たりないぶたい 25
「いきなり大きな声出さないでよ!」
私の声にマネージャーは驚いた様で思わずスマホを放り投げてしまう。
「ごめんなさい!」
反射的に頭を下げた私は助手席の座席に頭をぶつける。
その衝撃で揺れる車内。
ぶつけた所を押さえながら顔を上げるとバックミラー越しに運転手さんと目が合う。
少し不機嫌そうな顔をしている運転手さん。
お騒がせして申し訳ない気持ちになる。
「忘れ物なんて言われても、もう戻れないから!」
自分で投げ捨てたスマホを拾いながらマネージャーは言う。
「違うんです!萌ちゃんに伝言を伝える様に言われてたんです!けど、伝え忘れちゃいました…」
私は別仕事で来れないメンバーから伝言を預かっていた。
萌ちゃんと仲の良かったその人から。
「伝言ね…」
マネージャーはそれ以上何も聞かなかった。
誰からから預かって来たのかなどは察しがついているのかも知れない。
タクシーは街中を進む。
会話がなくなった車の中。
今さっき大きな声を出してしまった私は大人しく窓の外を眺めていた。
名古屋の中心部は休日ともなれば車通りは多い。
道は少し渋滞気味だ。
私みたいに仕事に向かう人もいれば、遊びに行く途中の人もいる。
この街ではいつもの光景。
“萌ちゃんそろそろ演奏始めた頃かな?“
私は自分のスマホをポケットから取り出す。
待ち受けは萌ちゃんとの2ショット。
卒業コンサートの時に撮った写真だ。
萌ちゃんの演奏している姿を見たかったけど仕方ない。
むしろ同じ会場で会えただけでも奇跡的なのだ。
そうこうしている間にタクシーは次の仕事現場であるテレビ局に到着していた。
「お騒がせしてすみませんでした!ありがとうございました!」
タクシーの運転手さんにお礼を伝えテレビ局に入る。
「珠紀さんちょっと待って!許可書まだ貰ってないから!」
マネージャーが慌てて私を止める。
どうやら待機していた別のマネージャーから入局許可証を貰う段取りらしい。
だけど、待機している筈のマネージャーがいない。
テレビ局の入り口で私達は立ち往生する事になった。




