たりないぶたい 23
2次選考の時はキャプテンと珠紀のマボロシに背中を叩いてもらった。
でも、今日は違う。
それは実態のある痛み。
目の前には本当の西村珠紀がいる。
「萌ちゃん!びっくりし過ぎだよ!」
私が驚いている姿を見た珠紀は嬉しそうに笑う。
「いきなり叩かれたら驚くに決まってるでしょ!てか、なんでいるの⁉︎」
ステージから捌けた後のスケジュールを私は知っている訳ではない。
でも、大体こう言ったイベントのオープニングアクトをやった後は大体最後まで残らない。
次の仕事があるからだ。
それは地元テレビ局のお昼の放送に生出演だったり、雑誌の取材だったり、他のイベントだったり様々だが。
土日は下手すれば3つくらいイベントを回ることがある。
卒業してから言うのも変だが、16区ナゴヤも結構忙しい。
だから、レッスンができる時は居残りしてでも時間を作っていた部分はある。
「次のお仕事が少し遅れるって聞いたからマネージャーに頼んで私だけここに残ったの。萌ちゃんの演奏見たかったし!」
マネージャーの困った顔が目に浮かぶ。
多分凄く珠紀がゴネたのだろう。
さっきの事もあるし、気を使ったのかも知れない。
「そういう事ね」
聞きたい事は沢山あるがあまり時間はない。
今はライブ本番中だし、案内してくれるスタッフさんを待たせるわけにもいかないからだ。
「私の分の気合いも入れたし、頑張ってきてよね!」
珠紀は私を回れ右させ両手で背中を叩く。
「充分伝わってるから大丈夫!頑張ってくるよ!」
私は振り向く事なく、待っている先輩達の方に歩いて行く。
「はじめてお会いしますが、先輩方、萌の事お願いします!」
背中に響く珠紀の声。
相変わらず彼女は憎めない子だ。
私は少しだけ微笑み、後ろ姿のまま手を振り別れを告げる。
背中に熱い気合いを感じながら。
「忘れ物はあった?」
萌ちゃん達がステージ袖に消えていったのを見送ると、私の後ろから声がした。
「うん!ちゃんと見つかったよ!」
私は振り向き声の主に笑顔で答える。
呆れ顔をしているその人に。




