たりないぶたい 22
歓声が上がる。
これは私の頭の中ではなく現実の話。
「fishing is good」の演奏が終わったのだ。
間違いなく今日1番の歓声だろう。
その証拠に控え室にまでしっかり振動が届いている。
そんな歓声が響く中、私はスマホの待ち受けを見つめていた。
2次選考の時と同じ写真。
見ていると不思議と笑顔になる。
そして、勇気を与えてくれる御守り。
2次選考の時と同じ様にスマホを握りしめる。
この歓声に負けるわけにはいかない。
今言った言葉の意味はさっきとは少し違う。
私達はもっといい演奏をしてやる。
先輩達と一緒に。
それは「怒り」ではなく「挑戦」だ。
せっかく今岡先輩が作ってくれた曲。
みんなに知って欲しいし、盛り上がって欲しい。
そのために私はステージに立つべきだ。
そんな事を考え始めたら自分の演奏が上手く行かなかったらとか、不安な事は不思議と浮かんでこなくなった。
「vacant landさんステージ裏に待機して下さい」
控え室に入ってきたスタッフさんが私達のバンドの名前を告げる。
名前を呼ばれた瞬間、もちろん緊張はした。
控え室もスタッフさんがバンドを呼びに来るたびギターの弦の様に張り詰める為、尚更緊張感が増す。
だけど、慌てることなくその事を受け入れることが出来た。
ちゃんと準備できている証拠だろう。
先輩達の後に続き控え室を出る。
その背中は雄弁に語っていた。
まだ緊張に身体が対応出来ていない様を。
こういう時は、気合いを入れるに限る。
そう思い、私は手を広げ思いっきり振りかぶった。
そこで起きた事を理解するのには少し時間が掛かった。
私は先輩の背中を叩こうとしていたのに、気づいたら私が背中を叩かれていた。
何を言っているか分かるだろうか。
私は凄く驚いた。
先輩達は3人とも前にいる。
少なくとも私を叩ける位置関係じゃない。
ならば誰なのか。
驚きながら後ろを振り向くとなんと意図としない人物がいた。
「珠紀⁉︎なんでいるの?」
そこにいたのは髪が長くてまだあどけない少女。
西村珠紀だった。




