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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
たりないぶたい
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たりないぶたい 20

そんな中、先程迄よりも更に大きな歓声が控え室を揺らした。

嫌でも気にせずにはいられない。

控え室にいた全員の視線がモニターに集まる。


「fishing is goodか、そりゃ歓声も集まるよな」

誰かが呟いた。

私はこのバンドを知っている。

2次選考で私達の前に演奏していたバンドだ。

あの時もとてもレベルの高い演奏をしていると思ったがやっぱり選考を通っていた。


というか、まだ演奏をしていないのにこの歓声。

控え室にいる人達も納得している様子から察するにその界隈では名の通ったバンドなのだろう。


「fishing is goodです」

ボーカルの低く呟く様な第一声で会場は一気に湧き上がる。

それ以外の言葉を発する事なくベースの重くて低く響く様な音で演奏が始まった。

2小節ベースの音だけ。

その重い音に魅了されていると、そこからギターが音を重ねる。

音が強い。

ベースのこの重い音に対してギターの音が負けていない。

加えてもう一本ギターの音が入ってくる。

存在感のある音が2つ重なる中、しっかりメロディラインを形成していく。

そして、クラッシュシンバルが一閃。


観客が一斉に声を上げる。

手を精一杯振り、小刻みにジャンプして身体を揺らす。

会場の一体感。

2次選考の時には無かったその要素が彼らを更に大きな存在にしていく。


気付いたらモニターに釘付けになっていた。

そして彼らの凄さを少しずつ理解していく。

感覚じゃなくて頭で判るようになってきた。

何となくではなく、何処がとか何故が言葉に出来る。

もちろんまだまだ突っ込んだところまで解説できる訳じゃないが。


私は気付かされる。

心が踊っていることに。

見たかった世界に足を踏み入れたことに。

走り出したい衝動に駆られたあの時の気持ちに。


でも、好奇心に素直になれない自分もいる。

アイドルだった頃は真っ直ぐ走れたはずなのに。

みんなの顔がチラつく。

歯を食いしばり必死に悔しさを隠すみんなの顔が。

みんなの仇も取りたい。

どちらの気持ちを取ればいいのか分からなくなっていた。

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